[習近平が「中国版リーマン・ショック」を意図的に起こすこれだけの理由]という記事

 

(※) 「中国の負債総額は669兆元(1京1000兆円)に達している」。


習近平が「中国版リーマン・ショック」を意図的に起こすこれだけの理由

ゲンダイ 2021/09/27

「異変」は数年前から起こっていた

中国の不動産最大手の一角である「恒大集団」の経営不安が大きな問題になっている。

ちなみに恒大集団は年間10兆円規模の売り上げを誇る巨大企業であり、関連会社や下請け会社まで含めると従業員数は300万人を超え、その家族も含めれば1000万人の生活に関わると言われる企業である。

事情をよく知らない人からすれば、今回の問題は突然降って沸いたような出来事に見えるのだろうが、実はこの流れはもう何年も前から静かに進行してきたものなのだ。

2020年の12月に中国社会科学院は「中国住宅ビッグデータ分析レポート」を発表し、不動産価格が、北京では2017年4月の最高値から15.8%、天津では2017年3月の最高値から21.8%、青島では2018年7月の最高値から22.8%も下落していることを公式に認めている。中には最高値から半値まで下がった都市もある。

つまり、中国では3〜4年前からすでに、不動産価格の変調が起こっていたのである。そしてこうした中で、恒大集団をはじめとした不動産企業に経営上の問題がいろいろと浮上してきていた。

そのことは債券の利回りにもよく示されている。恒大集団が2020年1月に発行した2種類のドル建て債の金利は11.5%と12%であったのだ。

この頃は米国の10年国債の金利が既に1.8%前後まで下がっていて、ドル建てであれば低金利で資金調達ができるのが当たり前になっていた。この環境下で11.5%とか12%という金利を提示しないと資金調達ができないのが恒大集団であったのだ。

「恒大集団」破綻が及ぼす影響

さて、恒大集団の問題については、その影響はほとんど中国国内に限定され、世界レベルの金融危機への発展はなく、リーマン・ショックのようなことにはならないのではないかとの見方が主流となっている。

その論拠として挙げられているのは、おおよそ以下のようなものだ。

1)恒大集団の負債総額は日本円で33兆円規模になるが、そのうち米ドル債は2兆円程度であり、限定的である。しかも恒大集団の債券の所有者は恒大集団の経営リスクが高いことを十分に理解しており、万が一のことがあることも織り込み済みで、それを前提にして保有している。

2)恒大集団から他の不動産会社などに飛び火することを中国政府は嫌うだろうから、国家による強力な介入が行われるはずである。

3)リーマン・ショック以降、主要国の金融機関では資本規制が厳格化したことで、世界の金融システムは頑強なものに変わっており、かつてのようなことは起こりえない。

一見すると説得力のある冷静な見方に思えるだろうが、こうした優等生的な見方は、こと中国を相手に考える場合にはあまり適切ではないと私は思っている。

まず1)についてであるが、確かに恒大集団の債務全体の中で、米ドル建てのものはさほど大きな割合を占めないように見える。だが、恒大集団は9月23日に支払い期限が到来した人民元建ての債券とドル建ての債券について、人民元建ての債券についてのみ金利を支払う姿勢を示した。これは負担をドル建て債券の方だけにしわ寄せしたと見ることもできる。

この方針について、恒大集団が独自に判断しているものだと考えるのは適切ではない。背後に中国政府の意向が大きく反映していると見るべきである。

つまり、国内の負担はなるべく小さくしながら、その負担をなるべく外国に大きく背負わせるようにするというのが中国政府の方針なのではないか、ということだ。外国の投資家の負担は一見すると全体の2/33に見えるが、実際にはそんなレベルでは留まらないことになるだろう。

次に2)についてであるが、これは中国という国の見方を根本的に誤っているのではないかと思う。中国政府はこれが他の企業に飛び火しないなどという夢物語はおそらく考えていない。実際、極めて危険な状況にある不動産企業は恒大集団だけではないのだ。

2020年8月に中国政府は不動産融資に関する「3つのレッドライン」を提示した。レッドラインを超えているような危険な不動産企業は銀行融資を受けられない、とするものだ。

恒大集団はこの3つのレッドラインの3つともに引っかかっていたが、そのうち1つはクリアして、現在は2つのレッドラインに引っかかっている状態だとされる。そんな中で、華夏幸福、泰禾地産、嘉凱城集団、中天金融集団、富力地産、格力地産、京投発展、藍光発展などは、今でも3つのレッドライン全てに引っかかっていると指摘されているのである。

いずれも恒大集団ほどの規模ではないが、それでも日本で言えば、三井不動産や三菱地所くらいの大企業だと思ってもらいたい。

現代ビジネス・コラムニストの近藤大介氏によると、中国の不動産の専門家が「2021年9月 不動産企業危険度ランキング」として25社を挙げているとのことだが、ここには上記に記した企業以外に20の不動産企業が記されている

問題を抱えている企業がごく僅かであるなら、なんとか救済しようとするかもしれないが、問題はそういうレベルを遥かに超えているのである。

習近平総書記の「国家戦略」

朱鎔基元首相の息子で中国の金融界で大きな力を持ってきた朱雲来氏は、2017年末で中国の負債総額は669兆元(1京1000兆円)に達していると、2018年に開かれたクローズドな会合の中で話していた。その後の数字はわからないが、現在では1京3000兆円くらいにはなっているだろう。

2018年になってから、中国は急激に外資に対して、中国の金融マーケットを開放してきた。銀行と金融資産管理会社の外資出資比率の規制を撤廃し、100%出資の外資企業の設立も認めた。消費者金融、信託業務、ファイナンスリースなどで外資の導入を奨励する方針に変更した。

条件を満たす外国投資家が中国国内で保険代理業務や保険査定業務を行うことを認めた。外資の保険会社の設立に際して、事前に2年間にわたって事務所を開設しなければならないとの要件を撤廃した。もともとは中国人しか投資できなかった中国本土のA株市場へのアクセスを急激に緩めた。他にもまだまだ色々とある。

こうした外資規制の撤廃を西側の金融機関は歓迎し、中国の金融ビジネスへの進出が加速した。日米欧が歴史的な低金利に喘いでいる中で、中国は金融市場は規模も大きい上に金利水準も高いからだ。うまくやれるなら大きく稼げる機会が用意されているのである。

実際、金融情報会社リフィニティブの集計によると、西側の投資銀行が受け取った業務手数料は、中国を中心とするアジア・太平洋での収入がヨーロッパにおける収入を上回るようになった。

2020年に中国企業が支払った手数料は前年比36%増の総額201億ドルに達したが、これが20年代半ばに1000億ドルを超えるとの見通しをゴールドマン・サックスは示している。この方針のもとで、ゴールドマンサックスは中国事業を成長の柱に据えているのだ。

イギリスの巨大銀行であるHSBCもアメリカのリテール事業から撤退し、むしろ中国ビジネスへの集中度を一層高める姿勢を見せている。HSBCの稼ぐお金の8割近くが中国市場だという話もある。

世界最大の運用会社ブラックロックも中国シフトを高めていることで知られ、このブラックロックの姿勢については著名投資家のジョージ・ソロスが「西側の安全保障に関わる」として厳しく批判したほどだ。

本来なら外国からの干渉を嫌うはずの中国が、金融という重要部門に限ってどうして対外開放を進めているのか。それは、国内のバブル崩壊の衝撃を全世界に広げようという「国家戦略」があるからだと見るべきである。

中国共産党の習近平総書記は、この混乱を利用して国内の政敵を潰すだけでなく、世界経済を撹乱し、むしろ生じた混乱によって中国の覇権を確立することはできないか、というくらいのことを考えているのだ。

問題の根本を理解するために

こうした前提で、残る3)についても考えてみよう。

確かにリーマン・ショック後の規制強化によって、西側の金融は非常に力強くなった。リーマン・ショック時のように安易に公的資金に頼らなくても金融がなかなか壊れないような強さを身に付けたのは間違いない。不測の事態が発生した場合を想定したストレステストも行われ、これに合格することも金融機関に求められるようになった。

だが、このストレステストも、将来懸念されるストレス事象について専門家が洗い出したシナリオに基づいて実施されるものに過ぎず、中国政府がバブル崩壊の衝撃を意図的に世界に拡散させるような事態までは想定していないであろう。すなわち、ストレステストの想定を遥かに超えるようなことが中国政府によって引き起こされるとした場合、それに対応できるようなレベルには西側の金融機関も至っていない恐れがあるのだ。

私は今年の3月に『それでも習近平が中国経済を崩壊させる』を上梓し、この中で、中国の経済崩壊が今年の7月に開かれた共産党創建100周年を過ぎたあたりから見えてくるようになるのではないか、と示した。

中国共産党のトップがどうして中国経済を崩壊させるようなことをするのか、半年前には想像すらできなかった人が多いと思うし、今でも理解できない人が大半かもしれない。それでも、相次ぐIT企業への締め付け、突然の学習塾禁止、芸能界に対する粛清などなど昨今中国で相次いでいる事象は、明らかに習近平総書記が意図的に行っているものである、ということは理解できるであろう。

「常識」的なものの見方では中国経済を理解することはできない。中国経済の崩壊は習近平総書記が意図的に仕掛けている、というぐらいに「非常識」な見方をしないと、今の問題の根本を理解することはできないだろう。目下進行中の事態を軽視してはならない。