(※) 種子自体の価格も燃料の価格も今後も上がると思われますので、真面目な話、1袋200円とか300円でもいいと思います。栄養価高いんだし、モヤシとご飯だけで十分。それより、生産者の方々の廃業がこれ以上増えることのほうが問題です。このままでは、手軽な食品が次々と消えていってしまいます。
生産コスト上昇で「モヤシ」業者が悲鳴 ラーメン店で山盛りモヤシを残す客に「道具ではない」と嘆きも
AERA 2022/05/31
モヤシの生産業者がかつてない苦境に立たされている。
原料種子価格の高騰や、ロシアのウクライナ侵攻の影響などによる原油高で輸送費や工場での燃料費がかさみ、生産コストが上昇している。にもかかわらず、小売店への納入価格はなかなか上げてもらえない現状に、生産業者からは「薄利で耐えてきたが、もう限界」と悲鳴が上がる。
客寄せの目玉として激安販売されるなど「食卓の優等生」「財布に優しい」のレッテルを押し付けられてきたモヤシ。安価な値札の向こうには、ギリギリの経営に苦悩し、廃業を選ぶ生産業者たちの現実がある。
「うちのモヤシが9円で売られている」
今年に入って、モヤシの全国的な業界団体「工業組合もやし生産者協会」(東京)に、こんな報告が上がってきた。一緒に送られてきた画像には、店頭でおなじみの200グラムのモヤシ一袋が毎日「9円」で売られている様子が写っていた。
モヤシの小売店への納入価格は、200グラム一袋で20円台が一般的だ。協会ではこうした小売店での「不当廉売」と考えられる事例については、公正取引委員会(公取委)に申告することにしている。今回のケースでは公取委から小売店に対し注意がなされ、店頭価格は19円に上がった。それでも格安の価格である。
「モヤシは客寄せの目玉としての扱いが定着しており、消費者にも『安くて当たり前』という意識が根付いてしまっているのです」
苦渋の表情でそう話すのは、同協会の理事長でもある旭物産(水戸市)の林正二社長だ。
総務省の家計調査によると、モヤシ100グラム当たりの平均購入価格は2000年は19・15円だったが、21年は15・33円。
「店頭に並ぶ200グラム一袋は、30年前は約40円でしたが、ここ10年は30円程度に落ち込んでいます」(林社長)
その一方、中国から輸入しているモヤシの原料種子「緑豆」の価格は2010年以降、ほぼ右肩上がり。ここ2年は天候不順による不作なども影響し、今年は昨年より2割以上価格が上がっている。生産コストの上昇分が、小売価格に反映されない状況が続いてきた。
さらに原油高が追い打ちをかける。一日40トン、約20万袋を生産する旭物産の小美玉工場(茨城)では、モヤシを育てるための水をボイラーで温める必要があるが、その燃料は重油。21年10月~22年3月の燃料代は前年同期比の5割増となった。この他、包装資材や輸送費も上がっている。
林社長はこう訴える。
「これまで、がまんしてがまんして薄利でやってきましたが、もう限界です。今後、緑豆や燃料費のさらなる高騰が予想され、赤字に転落する日が近づいています。納入価格をせめて2円でも、できることなら4~5円上げていただきたい」
協会は業界全体の窮状を訴え、生産者はスーパーなどに対し納入価格の引き上げを求め続けてきた。世情を鑑みて応じてくれた小売業者も一部あるが、全体的にガードは固いという。
あるモヤシ生産業者は、
「大手スーパーに納入価格を上げてほしいとお願いしたところ、『うちで扱っている別の業者からは値上げの話は来てないよ』と返されました。それなら取引をやめるよ、という言葉にも聞こえました。スーパーの姿勢にも問題は感じますが、『モヤシは安いのが当たり前』との消費者意識が強すぎて、それが価格を上げられない原因になっているようです。スーパーも過当競争で、客離れが怖いですからね」と実情を話す。
1995年に550あったモヤシ生産者は、今は110にまで減少した。今年もすでに数件の廃業が確認されているという。
安値販売が常態化し、生産コストが上昇する一方で納入価格をあげてもらえないため、生産者はギリギリの経営を余儀なくされる。結果、生産効率化や人手不足を補うための設備投資をするお金がない。後継者も育たず廃業を選ぶしかないという悪循環に陥っている。
食べる側も、モヤシを軽く扱ってはいないか。
モヤシが大半の「野菜トッピング」を、頼めば丼からこぼれ落ちそうなほど山盛りにしてくれるラーメン店や、モヤシは食べ放題のジンギスカン店など「タダ」でサービスしてくれる飲食店がある。
こうしたラーメン店では、写真をSNSに投稿する目的で山盛りにし、平気でモヤシを残して帰る客もいる。目に余ると感じた店側がサービスを見直したケースもある。
林社長は嘆く。
「モヤシは道具ではないんです。私たち生産者が工夫を積みかさねて作っている野菜で、見た目だけ楽しんで食べずに残すなんて、あまりにモヤシに失礼だと思います」
そして、最後にこう訴える。
「私たちは、モヤシの小売価格を50円や100円に上げてほしいとは決して考えていません。お手ごろな価格で提供できる努力を今後も続けます。ただ、今のモヤシの値段はあまりに安すぎるんです。一袋20円、30円の値札の向こうに、困り果てている生産者の姿を想像してほしいと思います。消費者の皆さまが『適正な価格』を理解してくだされば、スーパーも値上げをしやすくなり、納入価格の引き上げにつながるのではないかと考えています」
「食卓の優等生」と言われ、がんばってきたモヤシの未来を守るのは、ちょっとの値上げを許してあげる消費者の心意気なのだろう。