とにかく、かつてはボーッとする時間がどんな局面でもわりとあったんですよ。
昔はスマホなんてなかった。
ぼーっと景色を眺めながら、昨日の会話を思い返したり、好きな人のことを考えたり。ただ揺れる電車の窓に映る自分の顔を見て「もっと素直に話せたらよかったのにな」と思いながら、流れていく景色に気持ちを重ねていた。
あの頃は「ひとり」がちゃんと
「ひとりきりの時間」だった。
誰ともつながらずに、ただ空を見て、風の音を聞いて、心の奥から浮かんでくる気持ちに、静かに耳をすませていた。
いま思えば、あの頃の「つながらなさ」は、不便さがくれた、静かな贈りものだったのかもしれない。
感情をすぐに誰かに共有できないからこそ、何度も心の中で感じ直して、育てることができた。すぐに記録できないからこそ、風景と気持ちは、音も匂いもそのまま記憶として深く残った。
すべてが静かで、ゆっくりで、心に余白のある、とても贅沢な時間だったのかもしれない。