韓国でブタのランゲルハンス島(膵臓の内分泌腺)をヒトに移植する臨床が開始

 

(最近の報道) アメリカで「遺伝子操作したブタの心臓」を心臓病患者に移植 (共同 2022/01/11)

(参考論文) 書評『ウイルスの意味論 生命の定義を超えた存在』より

> かつてはブタ臓器を用いた異種間移植が有望視されていた。ところがブタのDNA内に多数のレトロウイルス遺伝子が存在することが分かった。そしてこれらはブタがある種のウ イルスに感染することを防いでいると考えられている。ブタにとって有用なこれら内在性レトロウイルス群は、人間にとって完全な異物となる。もしブタの臓器をそのままヒトに移植してしまうと、臓器が生着した後、臓器受取人(レシピエント)がブタのウイルス感 染症に悩まされる危険性が生じるのである。そのためブタを用いた異種間移植の研究は停滞してしまった。


韓国はブタのランゲルハンス島をヒトに移植…糖尿病の治療に挑戦

中央日報 2022/01/13

米国でブタの心臓をヒトに移植したというニュースが伝えられる中、韓国ではブタのランゲルハンス島を糖尿病患者に移植しようとする臨床試験が試みられようとしている。韓国初の異種間臓器移植で、世界でも類例がない。

韓国食品医薬品安全処は12日、臓器移植を研究している「GenNBio」が昨年8月に申請したブタのランゲルハンス島移植の臨床試験申請書を審議中だと明らかにした。来月9日に結果が出る。

ランゲルハンス島はすい臓の島と呼ばれ、いくつかある細胞のうちベータ細胞が破壊されるとインスリンを分泌できなくなり糖尿病を引き起こす。1型糖尿病患者(ほとんどが先天性患者)が長期間インスリン注射を打つと低血糖に陥る。低血糖を認知できず死に至る場合があり、このような患者2人にブタのランゲルハンス島を順次移植するというのが今回の臨床試験だ。嘉泉(カチョン)大学吉(キル)病院が臨床試験を行う。

ブタのランゲルハンス島移植は2011年ソウル大学医学部病理学教室のパク・ソンフェ教授(退職)が無菌ブタのランゲルハンス島をサルに移植したことが契機になった。保健福祉部に異種臓器移植TFチームが構成され、2013年ソウル大学医学部にバイオ異種臓器開発事業団が発足した。

最も大きな壁は安全性論争だ。食品医薬品安全処細胞遺伝子治療薬課のヤン・ソンジュン研究官は「無菌ブタといってもブタ特有(内在)のウイルスを除去することができない。これがヒトの体内に入ってどんなことが起きるかよく分からない」とし「人体でウイルスが繁殖して広がればパンデミックを引き起こす可能性もある」と懸念する。

反面、ソウル大学病院のキム・ジョンミン元臨床実験部研究教授は「これまでブタの内在ウイルスがヒトに感染した事例がない。そのうえブタのランゲルハンス島は幹細胞とは違って各臓器に分化する可能性がない生体細胞だ。食品医薬品安全処が『万が一』まで過度に心配している」と話した。

韓国は米国のようにブタの心臓をヒトに移植するほどの技術をまだ備えられずにいるという。パク・ジョンギュ教授は「心臓を移植するには大きな無菌ブタが必要で、ブタの遺伝子をいくつか除去してヒトの遺伝子を入れ、ヒトと似たものにする形質転換を行わなければならないが、我々はまだその水準に達していない」と話した。米国は心臓に続きブタの腎臓を人体に移植するために準備を進めているという。