小説『イルミナティ』(1975年)よりアトランティス人について

セクション「第五のトリップ」より

 

「彼らは何色をしていたの?」不意に彼はハグバードに訊ねた。

「誰のことだ?」

「アトランティス人だよ」

「ああ」ハグバードはうなづいた。

「彼らはほぼ全身が、猿のような毛皮で覆われていた。少なくとも高アトランティス人はそうだった。突然変異は邪悪な目の刻の時代に起きた — 高アトランティス人を滅ぼした災害だ。後世のアトランティス人は現世人類のように無毛だ。最古のアトランティス人を先祖にもつものはかなり毛深いものが多い」

ジョージは思わず手すりにかけているハグバードの手を見ずにはいられなかった。黒い毛にびっしりと覆われている。

(略)

…「アトランティスにあった文明はいくつくらいなんですか?」ジョージは訊いた。

「基本的には二つだ。刻にいたるまでのものと、それ以後のものだ。刻以前はこの大陸には人口約百万の文明があった。技術的には、今日の人類よりはるかに進んでいたのだよ。原子力も、宇宙旅行も、遺伝子工学も、その他諸々もっていた」

「この文明が邪悪な目の刻に逢って致命的打撃を受けた。人口の三分の二が死んだ — 当時のこの惑星の住民のほぼ半分に当たる。刻のあと、復興は不可能になった。ほぼ無傷で最初の災害を切り抜けた都市も、その後の災害で破滅した。アトランティスの住民は一世代にして原始人に返ってしまった」

「大陸の一部は海没し、それがきっかけとなって最終的にはいまのように全土が海に沈んだ」

「よく書かれているような地震と津波が原因なの?」とジョージは訊いた。

「いや」ハグバードが妙に無表情になった。「人災だ。高アトランティスは一種の戦争で滅んだんだ。内戦だろう、彼らに対抗できるような勢力はこの惑星上には存在していなかったからね」

「ともかく、勝ったものがいるのなら、いまでも生き残っているはずだものね」とジョージはいった。

「いるわよ」とメイヴィス。「勝者はいまでも生き残っているわ。あなたが視覚化できるような相手じゃないだけ。征服国じゃないの。それに、わたしたちは負けた側の子孫だわ」