これは習近平の経済自爆戦術か、行き着く先は巨大な北朝鮮
ゲンダイ 2021/10/02
大原 浩
9.23は越えたが1ヵ月後は?
共産主義中国の大手不動産会社である中国恒大の債務問題がここのところ世間を騒がしている。注目されていた9月23日の利払いについて、「一部支払いをする」と伝えられたが、実際に耳をそろえて返済したわけでは無いようだ。一部の債権者と「支払い猶予の合意」がなされただけで、その他の債権者に対してはそのような話さえ無いようである。
このまま、30日間の猶予期間内に支払えなければ、正式に債務不履行(デフォルト)となる。
少し前までは、負債総額が33兆円に及ぶとされる中国恒大は「大きすぎてつぶせない」から、習近平政権は「結局最後は救済する」との見方があった。しかしながら、現在の当局の対応を見ていると、この見方はかなり楽観的であったようだ。
消息筋の話として「中国当局が地方政府に対し、中国恒大集団が経営破綻した場合に備えるよう要請した」との報道もある。これが確かであれば、習近平政権は中国恒大の救済に後ろ向きであり、同社の破綻は免れないということだ。
たぶん、習近平政権は「秩序ある破綻」を目指しているのであろうが、私の知る限り「バブルが秩序だって破綻」したことは無い。
大手金融機関や大企業が単独で破綻しても経済に波及しないことはしばしばあるが、それは「経済全体がバブルで膨れ上がっていなかった」だけにすぎない。
振り返れば、2008年のリーマンショックから13年が経過した。過去、1997年のアジア通貨危機など、おおよそ10年単位での「通貨・金融危機」を我々は何回か目撃している。そのため、私は2017年頃から、かなり警戒感を持って市場をウォッチしている。
これまでの数年間は「危機」と言えるほどの出来事は無かった。中国・武漢発のパンデミックは、社会・経済の危機であったが、金融・投資市場の反応はそれほどでもなく、バラマキで隅々までいきわたった資金で、市場が活況になったほどだ。
むしろ、社会・経済の危機が落ち着いて人々が冷静になった時が「金融市場の危機」の始まりになるかもしれない。「市場の危機」がより大きな「パンデミックの危機」で覆い隠されていたというわけである。
しかし、このバラマキによる「危機の先延ばし」がこれからやってくるであろう「本格的危機」を深刻化し、谷の底を深くすると考える。
これまで世界中で超低金利政策がとられ、それに加えてパンデミック時のバラまきを行ったことで、これ以上の「金融緩和」による経済の下支えは困難である。
9月27日公開「トヨタの半導体在庫の増加はデフレ経済の終わりを意味するか」、4月30日公開「いよいよ『大転換』の時代に突入…『インフレ』と『金利上昇』はすぐそこまで来ている!?」など多数の記事で述べてきた「インフレの脅威」が迫っている中では、むしろ金利を引き上げる必要に迫られる。
そのような状況の中で、我々が警戒しなければならないのは、「習近平政権」が「意図的に中国経済を崩壊させ、その影響を世界に及ぼそうとしている」かのように見えることである。
意図的に中国経済を崩壊させている?
信じ難いことだが、現状を見る限り、習近平政権は意図的に「中国経済崩壊」を引き起こそうとしていると思える。
中国恒大問題が、2008年のリーマンショックのように世界市場に壊滅的な打撃を与えるのか、それとも中国経済は「九死に一生」でなんとか命脈を保つのか、現時点では断定できない部分がある。
だが、たとえ中国恒大が「秩序ある破綻」を迎えても、要は「問題の先送り」が出来るに過ぎない。
3月29日公開「『金の卵を産むガチョウ』を絞め殺す習近平政権に未来は無い」など多数の記事で述べてきたように、「中国の抱える経済問題」は極めて根深いものであり、たとえ中国恒大の問題をクリアしても、次から次へと問題が噴出するからだ。
しかし、「中国経済崩壊=習近平政権崩壊」という図式は必ずしも正しい考えではないと思う。
確かに、中国恒大の問題については、習近平政権における事の重大性の認識が足りない可能性もある。リーマンショックの際も、「リーマン1社くらいつぶしても大丈夫だろう」という米政府・金融当局の甘い判断が惨劇を招いた。
だが、これまでの習近平政権の「アリババを始めとする国内民間企業へのバッシング」や「テスラをはじめとする外資系企業への嫌がらせ」などの政策を見ていると、習近平政権は「意図的に中国経済を崩壊させている」としか思えないのだ。
経済の繁栄よりも「政治闘争」
考えられる目的のひとつは、江沢民派(浙江財閥)などの徹底的な粛清である。江沢民派が鄧小平の改革・開放路線を受け継ぎ、2019年1月9日公開「客家・鄧小平の遺産を失った中国共産党の『哀しき運命』を読む」で述べたように「中国の繁栄の最大の貢献者」であることは、習近平政権にとって「不都合な真実」である。
だから、彼らが築き上げた経済的繁栄もろとも葬り去ってしまおうと考えているのではないだろうか? もちろん、それにより習近平派は返り血を浴びるどころか、跳ね返った刀で自分自身の肉まで傷が達するかもしれない。だが、彼らは「国営企業」を中心とした「国家主導の計画経済」によって共産主義中国を再び盛り立てることが可能だと考えている節がある。
非効率な国営企業(計画経済)はすでにソ連邦を崩壊させているだけではなく、毛沢東時代の中国が北朝鮮よりも貧しかった原因でもある。しかし、それでも「習近平氏の言うことを聞かない民間エクセレントカンパニーよりも、言いなりになる国営ボロ会社」の方が望ましいと考えているのであろう。
極度に中国が貧しかった大躍進・文化大革命時代の毛沢東の権力は絶大であったし、同様に世界の最貧国の一つである北朝鮮は、金一族が3代にわたって絶対権力をふるい、自分たちだけが喜び組を侍らせぜいたくの限りを尽くしている。
毛沢東回帰を明確に宣言している習近平氏が「国民を貧しくしても、自らの権力を拡大する」路線を突き進むのはある意味当然だ。
中国がすでに世界に組み込まれている
そのような「習近平の中国」がかつての毛沢東「冷戦」時代のように竹のカーテンを引いてくれれば、日本は一安心である。実際、毛沢東時代の中国はそのような状態であり、日本に大した害は及ぼさなかった。
毛沢東時代の中国は、1971年のキッシンジャーの中国訪問、72年のニクソン大統領の訪中を経て、79年のカーター大統領の時に国交がようやく正常化されている。貿易どころか、米国との国交さえなかったのであるから、日本を含む世界経済に与える影響はほぼゼロと言ってよかったのだ。
1978年末頃から改革・解放が始まり、2001年のWTO加盟によって中国経済が世界に組み込まれることになった。これは、毛沢東時代と異なった極めて、日本や世界にとっての深刻な事態である。
CPTPP加盟申請の本当の意図は?
そして、突如共産主義中国からCTPTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、いわゆるTPP11)への加盟申請が提出された。もちろん、共産主義中国は、加盟条件など殆ど満たしていないから笑止千万なパフォーマンスとも言える。あるいは9月22日夜に加盟申請を発表した台湾の動きを察知した先制攻撃かもしれない。
だが、思い返すべきは、2001年に中国がWTOに加盟したときもきちんと条件を満たしていたわけではなく「将来条件を満たすという約束」によって加盟が認められたということだ。その後20年たつがこの約束は完全に反故にされていると言ってよい。
この悪しき先例と、中国がお得意様であるマレーシアが加盟を支持し、シンガポールも歓迎の意思を表明したことには要警戒だ。さらには、ベトナムも加盟支持の立場のようだ。
このCPTPP加盟問題については、「習近平が目指すのは朝貢貿易か? 中国TPP加盟という暴挙を認めるな」を参照いただきたいが、自らが加盟することよりも、中華民国(台湾)の加盟を阻止し、CPTTPでの先進国の自由貿易の発展を(政治闘争を持ち込むことによって)阻害することが本来の目的と考えられる。
共産主義中国自身が加盟しなくても、マレーシア、シンガポール、さらにはベトナムなどを通じてCPTTPを操ることができると習近平政権は考えているのであろう。
繰り返すが、彼らは加盟し貿易の発展によって豊かになろうと考えているのではない。世界の中で中国だけが貧しければ、習近平政権の基盤が揺らぐが、世界全体が貧しければ習近平政権は安泰だ。だから、TPPに加盟して「世界経済を中国と一緒に奈落の底に落とす」のが目的だと考える。中国恒大をはじめとする中国の国内経済政策も、その発想の延長上で行われていると考えてよいだろう。
世界銀行よ! お前もか!?
世界銀行が9月16日、毎年公表していた「ビジネス環境ランキング」で中国の順位が不正に引き上げられるなどの操作があったと発表した。
その当時、世銀の最高経営責任者だったクリスタリナ・ゲオルギエバ国際通貨基金(IMF)専務理事も関与したとされている。しかし、これはあくまで氷山の一角だと考えられる。
例えば、中国に恭順の意を示すように見える韓国の潘基文氏が事務総長を務めた国連。そして武漢研究所かもしれないウイルス発生源特定を妨害したと言われるWHOのテドロス氏。さらには、まともな証拠もなく「南京大虐殺」を世界記憶遺産に登録したユネスコなど、多くの国際機関に共産主義中国の影響が及んでいると考えられる。
さらに、2001年に加盟したときの「約束」を事実上反故にしたままでWTOに居座ることができるのも、共産主義中国の影響の大きさを物語る。
このような国際機関への強大な影響力を駆使し、「自爆覚悟」のテロ攻撃で、「世界経済を破綻させ、その混乱に乗じて共産主義中国が覇権を握る」のが目的であるとしたら、これほど恐ろしいことはない。
中国が「巨大な北朝鮮」となり、「核ミサイル」ならぬ「(経済)破綻ミサイル」で世界を脅迫するということだ。
バイデンのアメリカでは勝てないかも
このような習近平氏に対して、「バイデンのアメリカ」は、一族の汚職・選挙不正疑惑に始まって、8月21日公開「サイゴン陥落のデジャブ『アフガン大返し』でバイデン3日天下?」で述べた大失態を演じた。
さらには、米軍トップであるマーク・ミリー統合参謀本部議長が、「大統領に内緒で」中国の李作成参謀長(中国共産党中央軍事委員会連合参謀部)に2度の極秘通話で、「米国は中国を攻撃しないと約束」していたことが明らかになり、全米が騒然となっている。しかしながら、ジョー・バイデン氏はミリー氏に対して、「絶大な信頼」を寄せていると「寝言」を述べている。
米政府が極秘裏に個人のインターネット利用や通話の記録を収集していた問題を暴露した、米国国家安全保障局 (NSA) および中央情報局 (CIA) の元局員であるエドワード・スノーデン氏は、国家反逆罪に問われる可能性があるが、彼が暴露した米政府の行為そのものにも問題があったのは否定できない。
しかしミリー氏の場合は、暴露された内容が真実であれば、「上官である米国大統領の意図に逆らって、密かに敵国と通じていた」のであるから、当然反逆罪となる。辞任程度で済む問題ではない。
このような、大混乱の「バイデンのアメリカ」の足もとを見るように、「(経済)破綻ミサイル攻撃」を習近平氏が仕掛けてくると考えるのは、杞憂なのだろうか?