「なーんか今って地獄」という感じのプレジデントの報道

 


独身49歳の公務員に貢がせた1000万円を、そのままホストに貢ぐ…夜の歌舞伎町で大金が飛び交うヤバい構図

president.jp 2022/12/25

日本最大の繁華街・歌舞伎町には多数のホストクラブがある。そこに通い詰める女性たちは、どうやって高額の料金を支払っているのか。ノンフィクションライターの中村淳彦さんがリポートする――。

■焼け野原から日本最大の繁華街に成長

歌舞伎町は戦後の焼け野原から始まっている。

戦前、現在の歌舞伎町は角筈(つのはず)一丁目という地名だった。古地図はいまも鬼王神社に飾られている。

焼け野原となった戦後、当時の町会長が角筈一丁目に歌舞伎劇場をつくって、娯楽地域として復興しようと計画した。角筈という地名から娯楽地域はイメージしづらい。町会長の提案で町名変更が検討され、1948(昭和23)年、予定されていた歌舞伎劇場にちなんで「歌舞伎町」と町名変更がされている。

戦後にヤクザが仕切るヤミ市が生まれたのは、新宿が最初だといわれている。新宿西口一帯、南口周辺に露店が集まってヤミ市マーケットが形成された。しかし、GHQ(連合国軍総司令部)から1950(昭和25)年3月末までの撤去を命令されて、多くの露天商や台湾人は歌舞伎町に移ったという。

昭和30年代に日本最大の繁華街となった歌舞伎町は、娯楽地域として復興を目指した地元町内会の尽力と、ヤミ市から流れて来た台湾人や露天商の力によって形成されていったとされている。

■現役風俗嬢に「ホス狂い」の実態を取材

歌舞伎町一丁目にある焼肉店で安部里穂子(仮名、30歳)を待つ。

安部里穂子は北新宿で暮らす現役風俗嬢で、SNSで歌舞伎町やホス狂い、夜職女性について積極的に発信している女性だ。「焼肉を奢ってくれるなら行きます」とのことだった。

この焼肉店に隣接するのは、かつてノーパンしゃぶしゃぶ「桜蘭」があった商業ビルだ。桜蘭は1998年の大蔵省接待汚職事件の舞台となった店で、当時風俗ライターだった筆者は行ったことがある。

2時間2万円の料金で隣にノーパンの女性がついて国産牛や野菜を鍋に入れてくれる、という飲食店だった。女性従業員がパンツを履いていないだけの店だったが、「歌舞伎町」や「ノーパン」のイメージが悪かったことで、繰り返し報道されて大騒ぎとなった。最終的に大蔵官僚7人が逮捕、起訴された。

「いちばん安い肉でいいので、6人前注文していいですか?」

安部里穂子はメガネをかけた理知的な女性だった。やって来て挨拶すると、すぐにそう言う。彼女は精神疾患のひとつである過食嘔吐を患っていて、とにかく大量に食べるようだ。

■どんな人でも受け入れる歌舞伎町でも馴染めない

大量のカルビとハラミがテーブルに並んだ。

安部里穂子は小鉢3つを用意してそれぞれに辛口ダレ、醤油ダレ、レモンを入れてガツガツ食べ出した。中学生のときから援助交際し18歳でキャバ嬢、23歳で風俗嬢になっている。それから風俗をずっと続けるのは、そもそも風俗に向いていることを除けば、毎月膨大な食費がかかることが理由のようだ。

「私は歌舞伎町の近くで暮らしているのに、ホストにハマれなかった。みんなホストに狂っているのに自分だけホス狂いになれない。それは逆にずっとコンプレックスでした。歌舞伎町ってどんな人でも受け入れるってスタンスじゃないですか。私はそんな街なのに、ちょっと馴染めない。自分の居場所はどこにあるのって不安になることもあります」

彼女が暮らす北新宿は抜弁天と同じく、たくさんのホストやキャバ嬢、風俗嬢やホス狂いが暮らしている。最寄りはJR総武線・大久保駅だが、職安通りのガードを超えれば歌舞伎町となる。

彼女は頻繁に歌舞伎町のホストクラブやサパーに通っている。SNSで知り合って交流を続けるたくさんのホス狂いたちと仲良くするが、彼女自身はホス狂いにはなっていない。担当に入れ上げることはなく、一歩引いた立場でホストやホス狂い、歌舞伎町と付き合っている。

■女子会では「おじさんたちからどうやって財産を奪うか」

「ホス狂いの女の子たちは無限にお金が必要なので、常にどうやってお金をつくろうか考えています。ホス狂い女子会みたいなのはよくある。基本的にお金の話ばかり。内容はエグいです。どこの風俗が稼げるとかいうレベルじゃなく、おじさんたちからどうやって財産を奪うかみたいなこと。彼女たちに狙われているのは、寂しいおじさん。40代、50代で未婚で優しそうな人をなんとか見つけて、“ガチ恋”をさせてお金を引っ張りたがっている」

結婚しない、できない男性は本当に増えた。2020年の生涯未婚率(50歳時の未婚率)は25.7パーセント(総務省調べ)であり、男性は4人に1人が結婚しない社会となっている。

この傾向はずっと続く。2040年、男性の生涯未婚率は30パーセントの水準に達すると予想されている。ちなみに半世紀前(1970年)の男性の生涯未婚率は3パーセント台。昭和から平成を経ている間に8倍以上も跳ね上がっている。

今回の取材でも、地下アイドルイベントで童貞の群れを目撃した。第二次ベビーブームに生まれた現在アラフィフの団塊ジュニア世代は、人口は多い。いま、中年男性で底なしの寂しさを抱える者たちは大量に存在している。

無限のお金を必要とするZ世代のホス狂いたちは、この底なしの寂しさを抱える中年男性たちの懐を狙う。

■風俗店で「お金があって優しいおじさん客」を探す

「ホス狂いは、おじさんからお金を取ることになんの抵抗もないです。だまして貢がせて、既婚おじさんの家庭が壊れようが、おじさんの子どもの人生が狂おうが、だまされたモテないおじさんが自殺しようが構わない。おじさんが借金しようが家を売ろうが関係ないわけです。とにかくホストに貢ぐお金をつくりたいって、それだけ」

ホストクラブに行くお金をつくるため、風俗や街娼をする女性たちはこれまで『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)で紹介した。若い女性を求める中年男性に、肉体を提供してその対価をもらうだけでは上限がある。

ホストクラブで他の女性に勝つためには、それではお金が足りない。さらに稼ぐために、寂しい心を抱える中年男性を恋愛状態にさせ、そこからお金を引っ張ることまで企んでいる。

「どこでおじさんを見つけるかというと、風俗店で探しているケースがいちばん多い。風俗客は寂しいおじさんがたくさん来る。風俗嬢になって、お金があってめちゃめちゃ優しいみたいなおじさんを探すんです」

客の収入が高い傾向があり、十分なコミュニケーションがとれるのは高価格帯のソープランドだ。

■「生涯未婚系のほうが純粋でだましやすい」

「狙いのおじさんを定めたら、連絡先を交換してつながる。女からアフターとかデートを誘って、交流してガチ恋させる。自分のことを好きにさせて色恋でお金を引き出す。

お金を引き出す理由はそれぞれ。学費が必要とか、親が病気になったとか、結婚をチラつかせるとか。手段を選ばないで嘘を言って、同情させてお金を出させる。おじさんは既婚者でも独身でもいいけど、生涯未婚系のおじさんのほうが純粋なのでだましやすい。既婚者は奥さんとか子どもがいてそれがストッパーになるし、奥さんから訴えられても面倒くさいから」

風俗での就労収入と色恋での収入でダブルインカムとなる。稼ぎながらカモを探すことができるので、ホス狂いたちはこぞってソープランドで働く。

彼女たちがターゲットにする団塊ジュニア世代、バブル世代の男性たちは男子校で育っている者も多い。女性に幻想を抱いたまま年齢を重ねると、悪い女性が存在するということを知らない。清楚な風貌をした若い女性に少し優しくされると、すぐになびいてしまう。

女性慣れしていない性格のいい優しいおじさんを見つけて、自分に恋愛感情を抱くように誘導し、好意を確信したところで仕掛ける。同情を誘う嘘をつき、演技しながらお金を無心し、その足で担当のいるホストクラブに駆けつける。

■独身49歳の公務員から「1000万円引いた」

「昨日のことだけど、ホス狂いの友だちが『1000万円引いた』って喜んでいた。携帯の電子通帳を見せてもらいました。本当に1000万円台を持っていました。その子はあまりかわいくない、ちょっとイモっぽいソープ嬢」

そのソープ嬢は「独身49歳の公務員に結婚をチラつかせて引いた」という。満足気に電子通帳を見せてくれた。

「おじさんってイモっぽい女が好き、純粋みたいな。勘違いして信じちゃう。逆に美人のほうがおじさんにはモテない。その子はどちらかというと一見清楚ではあるけど、実際は手に負えないホス狂い。1000万円は担当に全ツッパすると思う」

「全ツッパ」とは全額投入という意味だ。彼女だけでなく、ホス狂いたちはSNSで積極的に発信・交流している。オンラインで仲良くなってからのリアル女子会は、女性たちの同性との出会いの最もメジャーな形となっている。

ホス狂い同士がつながると、どうやってお金をつくるかの情報交換となる。おじさんから1000万円引いた、2000万円引いたという成果が飛び交う。ホス狂いたちは、みんながみんなおじさんたちの財産をどう奪うかを考えている状態だという。

■「おじさんにガチ恋させる」情報商材も登場

最近ではおじさんをガチ恋愛状態にしてお金を引き出す方法が、情報商材となって高額取引されている。

「情報商材は2万円とかするけど、真似したい女の子たちがどんどん買っている。めちゃ売れています」

情報交換、情報商材だけでなく、おじさんからお金を奪う方法をコンサルティングする女性も現れた。

「LINEサポートとか。おじさんからこういうLINEが来たら、こう返すみたいなことを教える。おじさん相手の色恋もだんだんマニュアル化されてる。みんなとにかくお金を稼げる手段を探している。理由はたったひとつ、担当に貢ぐため。おじさんは歌舞伎町には近づかないほうがいいです。本当に危ないし、ヤバいです」

ホス狂いの女の子たちは、どうしてそこまでしてホストに執着するのだろうか。客観的な立場にいる安部里穂子に聞いてみる。

「ホストと姫という立場を超えて愛されたいのだと思う。他の女は本営だけど、自分だけは違うと思いたい。私がホス狂いになれなかったのは、たとえば初回に行ってホストにアフターしようとかランチ行こうとか誘われても、その見返りに何を求められるの? って考えちゃう」

風俗で稼いでいたのでお金はあったが、ホストの本心が見える。イケメンと遊びたい心はあっても、とてもハマれなかった。

■彼女たちは何に飢えているのか

「あとホス狂いの女はロクなのがいないです。仲は良くても、あまり好きになれません」

ロクな人がいないとはどういうことか。

「ホストクラブは趣味とか、好きなことがなかった人がハマる。それでホストに依存して執着する」

「好きなことがない人間なので、まず人として面白くない。いままで何も楽しいことがなかった、みたいな人はハマりやすい。それで担当がすべてになっちゃう。私は自分の大切なモノ、好きなモノは説明できる。でも、多くのホス狂いは自分には何もないってコンプレックスがあるから、男とか人に依存しちゃう。ホス狂いは薄くて、面白くなくて、何も持っていない人ばかり。つまらない人たちです」

安部里穂子は、本当によく食べる。ご飯も頼んでいいですかとライスの中と、肉の追加を注文している。食べたものは帰ると吐くので、どれだけ食べても問題ないようだ。追加の肉を焼き、風俗嬢になった理由や親との関係を語りながら食べまくる。最終的には10人前を食べ尽くした。満腹になって満足したようで、北新宿のマンションに歩いて帰って行った。