ジャック・アタリ氏による「中国による台湾侵攻」の後の日本

 


台湾有事が誘発する世界大恐慌、日本が取るべき道はこれだ

JBpress 2021/09/21

日本に新しい総理大臣が誕生しようとしている。新総理大臣と我々日本人には、どのような運命が待ち受けているのだろうか。

日本はいまだに世界一の純資産国である。日本から多くの世界一が消えた今、経済大国としての最後で最大の砦だ。

日本の巨額の国民資産を預かる方々がこれから直面するのは、第2次大戦後初めて体験する事態になるだろう。

9月3日の日本経済新聞に、ジャック・アタリが「加速する歴史の歩みに備えを」というコラムを寄稿していた。

アタリは、10年かかると見られたドイツの再統一には1年もかからなかったこと、気候変動への対策を講じない限り2050年に起こると言われていることが2025年にも起こりうる、などの加速する歴史の歩みの例を出した。

その中で、日本人が注目すべきことは、「台湾への中国の武力行使は我々が思っている以上に早期に起きるかもしれない」というくだりだ。

この問題の是非については世界的に議論百出であることは言うまでもない。もし、そのような事態が発生した時には、日本が海外に持つ純資産はどうなるのだろうか? 

日経新聞が買収したフィナンシャルタイムズは世界最高のクオリティペーパーとも言われるが、元々は、名前のごとく投資家のための新聞だ。フィナンシャルタイムズ流に、世投資家の目線で中国による台湾への武力行使(中国から見たら国土回復)の影響を考えてみよう。投資家としては「想定の範囲内」だ。

まず、情報を整理してみよう。

 情報1:台湾をめぐり米中の軍事衝突が起きた場合の勝者は? 

中国になるだろう。米国の軍のトップが、様々なシミュレーションをしても中国が勝つ確率が100%であることを公言している。

米軍部の軍事予算の獲得のためという見方もあるが、台湾周辺の地政学と軍事のバランスは圧倒的に中国に有利だ。

 情報2:負けることが分かっていながら、台湾を守るために米国は中国と戦争するのか? 

しないのではないか。これは傍証しかない。米国をテロ攻撃したアルカイダの拠点だったアフガニスタンから米国軍は撤退した。

ジョー・バイデン大統領は、アフガン撤退は米国が自国防衛に集中するためと国民に説明した。それでは、台湾を守るために米国は戦うのだろうか? 

台湾からの半導体の供給を守るために? 

 情報3:米中が台湾をめぐり激突した時に、経済封鎖や経済断交はあるのか? 

「激突」ならありうる。あるいはそうした「予測」が支配的となりうる。

1989年6月の天安門事件の後には米国は中国に対して全面的な経済制裁を加えた。そのような場合には、中国も対抗して米国との経済関係の断絶を実行するか検討するだろう。

 情報4:米中が激突した場合には米国株はどうなるのか? 

暴落するだろう。時価総額が700兆円を超えるGAMFAの生命線であるスマートフォンやタブレット端末は台湾と中国に製造や部品供給を依存している。

たとえ戦争にならなくても、米中が激突した時にはその影響は大きい。

テスラに至っては、中国工場での生産と販売が生命線だから、米中が激突した時のインパクトは大きいと想定される。

 情報5:台湾経済は中国に依存している。

アップル製品を中国で作っている鴻海や世界最大の半導体のファウンドリーであるTSMCは中国にも巨大な製造拠点を持っている。

そもそも、台湾経済の発展は「中国でのビジネスを進める力」にある。中国と関係を途絶しては台湾は立ち行かない。

 情報6:米国経済の中国依存度は、中国経済の米国依存度よりも高い。

 (1)米国経済は中国に製造をアウトソースすることで成長した。中国との決定的な対立はサプライチェーンに致命的な影響を与えるだろう。

 (2)いまや、中国経済は米国企業の最大の海外市場。

 (3)世界最大の債務国米国は日本と並ぶ米国債の最大級の保有国である中国に資金を依存している。米中激突は米国の国債と為替市場を直撃しうる。

 情報7:中国は米国が軍事戦争を戦う相手なのか? 

そうでない可能性が高い。旧ソ連と違い、今の中国は米国の最大の経済相手国。

その一方で、中国はスターリン時代の旧ソ連のように米国と世界制覇を競ったり、世界中に「革命を輸出」して米国と代理戦争を繰り広げていない。

だから、米国にとっては、中国は「自国防衛」のために戦う相手ではない。米国は「自国防衛には無関係」としてタリバンの支配するアフガニスタンから撤退した。

 情報8:中国は台湾侵攻(中国から見たら国土回復)を中止するか? 

可能性は低い。中国にとって「台湾回復」は1949年の建国以来の国是。日清戦争で失った国土の回復であり、その方針を変更させることは困難。

中華人民共和国の建国以来72年を経過して、独立派が増えた台湾の「平和統一」の可能性は低下している。

 情報9:米国は、外交的に「台湾防衛」の正当性はあるのか? 

人権問題を除けば、希薄。米国と日本は1951年9月8日に署名したサンフランシスコ平和条約で日本の台湾領有権の放棄に合意した。この時に台湾の独立は合意されていない。

米国と日本はその後、中華人民共和国と国交を樹立した。米国と日本は、台湾とは正式の国交はない。台湾は、日清戦争以前は中国の領土であった。

 情報10:中国はいつ台湾侵攻(中国から見たら国土回復)を実行するのか? 

5年以内なのではないか。最近発表された中国の新幹線計画では、5年後の北京からの新幹線の終着駅の一つが台北となっているとのことだ。傍証の一つだろう。

(以下略)