へえ、と思いましたけれど、「作用機序が不明な薬」というのは結構あって、Wikipedia には以下のようにあります。
解熱鎮痛剤のアセトアミノフェン(カロナール)も、作用機序は不明なようです。これらは、なぜ作用するのかわからないままに実用されています。
この180年間、「吸入麻酔薬」はなぜ効くのか分からないまま使われている「驚きの事実」
金谷 啓之 2025/03/17
私たちはなぜ眠り、起きるのか?
長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。
発売たちまち3刷が決まった話題のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見、さらには自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。
(*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)
吸入麻酔薬はなぜ効くのか分からない
世界中では、毎年2億件以上もの手術が行われているという推計がある。しかし驚くべきことに、吸入麻酔薬が効かなかったという報告は、これまでに一例もない。吸入麻酔薬は、100パーセント必ず効く薬なのだ。
吸入麻酔薬は、どのようにして作用するのだろう?
薬であるからには、“標的”が存在するはずだ。薬の標的は、往々にしてタンパク質である。いかなる薬も、ある種の化学物質であり、ほとんどの場合、細胞の内外ではたらいているタンパク質に物理的に結合する。
タンパク質のはたらきを変化させることで、細胞のはたらきを調節し、ひいては組織全体・体全体の変化をもたらすのだ。
吸入麻酔薬は気体として吸い込まれた後、肺で血中に取り込まれて脳に達し、神経細胞のはたらきを変化させる(主には抑制する)ことで、麻酔効果を発揮すると考えられる。
まったく不思議な話なのだが、吸入麻酔薬の標的となるタンパク質は、未だよく分かっていない。1840年代から約180年、なぜ効くのか分からないまま使われているのである。
そんな医学の大きな謎に迫ろうと、私はこれまでに、吸入麻酔薬の標的を探索する研究を行ってきた。
これまでの研究で、ある種のタンパク質が吸入麻酔薬によって活性化されることを見出している。そして、そのタンパク質の活性化が吸入麻酔薬による全身麻酔の誘導にも関連していることが明らかになってきた。
麻酔と睡眠──相同な現象ではないが、共通している部分も多い。全身麻酔は、私たちの意識を遮断することができる魔法の技術だ。
吸入麻酔薬の標的が明らかになったとして、はたしてその標的がどのように意識を消失させるのか?そもそも、麻酔によって消失する「意識」とは何か?