食品にとどまらない値上げ連鎖、建設鋼材から肥料まで…「これまでとは比較にならない」
読売新聞 2022/04/05
値上げの波は食品や日用品にとどまらず、建設鋼材から肥料に至るまで幅広い資材に及ぶ。コロナ禍からの需要回復に円安・ドル高、さらにロシアのウクライナ侵攻に伴う供給不安が加わり、原材料高の転嫁が進む。ロシア産に頼る資材も多く、家計や企業の負担増が消費の低迷や業績の悪化に結びつく懸念は高まる一方だ。
「2020年夏まで、1トンあたり100ドル(約1万2000円)だった原料炭の価格が、一時650ドルを超えた。これまでとは比較にならない高騰だ」。日本鉄鋼連盟の橋本英二会長(日本製鉄社長)は3月29日の記者会見で強い懸念を示した。
鉄鉱石価格の上昇も続く。日本製鉄は3月、ビルの柱などに使う「H形鋼」の価格を1トンあたり7000円引き上げた。値上げは2か月連続で、「4月以降も値上げを検討する」(担当者)という。
建材高騰のあおりを受ける日本建設業連合会の宮本洋一会長(清水建設会長)は「このままでは業界が健全な経営を維持できない」と危機感をあらわにする。日建連は建材の高騰をデータで示し、窮状を訴える資料作りを急ぐ。加盟業者が工事発注者に契約金額の引き上げを頼みやすくするためだ。ただ、マンション価格やビル建設費の上昇を通じ、家計や企業の負担増となりかねない。
住宅用建材大手の大建工業(大阪市)は、北海道に建設予定だった木質ボード生産工場の事業計画を延期した。建屋や生産ラインの設置に必要な鋼材が急騰し、総事業費が当初予定より50億円余分にかかる見込みとなったためだ。
キッチン
鋼板や樹脂の仕入れ価格上昇を受け、住宅設備メーカーのタカラスタンダードは25日受注分から主力のシステムキッチンを2~4%値上げする。TOTOも10月からユニットバスなどを2~20%引き上げる。
原料のニッケルが高騰し、ステンレス製調理器具も値上げが相次ぐ。ロシアはニッケル鉱石の20年生産量で世界全体の1割程度を占め、国別では3位だ。
東京都台東区・ 合羽橋かっぱばし の調理器具専門店「高橋総本店」では4月から、ザルやボウルなどステンレス製品を1割程度値上げした。高橋亮代表は「侵攻の影響で年後半や来年にさらに値上げせざるを得なくならないか心配だ」と話す。
争奪戦
稲作や畑作など農業で広く使われる化学肥料の一種「高度化成」の2月の価格は、20キロ・グラムあたり3353円と前年同月比16%上昇した。原材料の塩化カリウムは全量を海外に依存している。このうち計約2割はロシアとベラルーシからの輸入だ。2月の塩化カリウム価格は前年同月の2・4倍に急騰した。
輸入先トップのカナダに代替を求め、国内供給を確保しているが、肥料の原材料は世界で争奪戦の様相を呈しており、幅広い農産品の値上がりが懸念される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎・主席研究員は「日本の賃金は伸びが限られ、消費者は統計の数字以上に価格上昇を実感している。今後期待される旅行や外食などの『リベンジ消費』に水を差す可能性がある。少なくとも年内は物価上昇圧力が続くだろう」と分析する。