[パニック障害が治るのを抗不安薬が邪魔をする]という心療内科のウェブサイト

 

(※)こういう立派な精神科医の方が日本にもいらっしゃるのですね。内容もわかりやすいです。私もベンゾジアゼピン系の薬を20年以上飲んでいましたが、パニック障害が治らなかった原因が、「薬を飲んでいたから」だということが、このページでわかりました。


パニック障害が治るのを抗不安薬(ベンゾジアゼピンの頓服)が邪魔をする

あらたまこころのクリニック 2022/04/01

パニック障害が完治するとはどういう状態?

パニック障害が完治するとはどういう状態?について2回に分けてお伝えします。(今回と次回

あらたまこころのクリニックパニック障害治療グループでもよく話題になる重要なテーマです。

パニック障害が治る=「パニック発作が起きない」ではなく、パニック障害が治る=「もしパニック発作が起きても大丈夫と思えること」と目標を置いています。ですから、グループ参加するメンバーではお守り用に頓服薬を希望する人は殆どいません。必要がないのです。

今回は、パニック障害が治るとはどういう状態か?について、解説していきたいと思います。

パニック障害5つの症状

パニック障害には、大きく分けて5つの症状があります。①パニック発作、②予期不安、③広場恐怖、④うつ症状、⑤慢性的な体の不調です。

①パニック発作

パニック発作とは、あるとき突然、激しい不安・恐怖感とともに、心臓がドキドキ、過呼吸、発汗、震え、呼吸困難、胸の圧迫感、吐き気、めまい、ふらつき、手足のしびれなどの身体症状が起こる症状のことをいいます。パニック発作は突然に起こり、15分以内にピーク達して、通常、20~30分くらいで治まります

②予期不安

パニック発作を繰り返し起こすと、多くの場合、「またパニック発作が起きるのではないか」「パニック発作のせいでコントロールを失ってしまうのではないか」などと不安になります。これを、予期不安といいます。

③広場恐怖

広場恐怖とは、広い場所が怖いということではなく、「パニック発作と関連がある」「もしここでパニック発作が起こると、すぐに逃げ出せない」と思う場所や状況が怖くなり、避けるようになることです。パニック障害の全ての方に広場恐怖があるわけではなく、広場恐怖を伴わない方もいらっしゃいます。

④うつ症状

パニック障害の方の中には、抑うつ状態やうつ病が合併する方もいらっしゃいます。これは、広場恐怖により、生活や行動に制限が生じ、「自分のせいで家族と旅行ができない」「出張を断らなければならなくなり、会社に迷惑をかけた」など自分責め落ち込むことから起こるもので、本来のうつ病とは違います。パニックの症状が改善するにつれて、抑うつ状態も改善していきます。

⑤慢性的な体の不調

一度パニック発作を経験すると、その強烈な体験から、発作に近い身体感覚(動悸、めまい、吐き気、のどが詰まる、息が苦しいなど)を恐れるようになります。通常は見逃されるような小さな感覚にも敏感になり、運動などを避けるようになります。これを身体感覚過敏といいます。身体感覚過敏はパニック発作が起きやすくなる土壌でもありますが、慢性的な体の不調の原因になることもあります。

脈が飛ぶ、不整脈、心臓がドキドキ、動悸が続く、息ができない、息苦しい、胸が痛くなる、吐き気、のどが詰まる、肩こり、頭痛、お腹の感じが変、体がふわふわする、ボーとするなどの、ちょっとした体の不調を無視することができなくなり、不安が高まり、身体症状が悪化する悪循環に陥ります。

一般的には自律神経失調症、身体表現性障害、心身症、過敏性腸症候群と言う病名がつくこともあります。

パニック発作がなくなっただけではパニック障害が治ったとは限らない

多くの方は、薬物療法などで、特に安定剤、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用し、たちどころにパニック発作が減っていくことで「回復してきた」「治った」と感じるのではないでしょうか。あれだけ自分を苦しめていた発作が減って困ったことを乗りきれるとすれば、そう思われるは自然なことだと思います。

しかし、それでは十分ではないと私たちは考えています。

まず、パニック発作自体は、決して珍しいものではなく健康な人でも約10から30%は経験すると言われています。発作自体は、自然な自律神経の反応ですから、いつ何時も誰に対しても起こりうるのです。ドクドクする、ハラハラするというのは、映画を観たときでも必ずあります。もしドキドキしなかったら、「あーつまらなかったなあ」という気持ちになり、ガッカリして映画館から帰ることになるかもしれません。自律神経の働きという点では、パニック発作も手に汗握る映画も同じです。同じ体の反応でも、一方は楽しい、一方では恐怖になってしまうのです。ここにパニック障害という病気の本質があります。

頓服薬が結果として不安を高める

頓服というのは困ったときだけ飲むという薬の使用法です。緊張したとき、ドキドキしそうな時にとっさに服用するため、外出する時は肌身離さず持ち歩く「お守り」です。実は之が良くないのです。確かにベンゾジアゼピン系抗不安薬を服用することで発作は減少します。正しく使えば、とても効果があります。ですが、パニック障害などの不安障害の治療では長い目で見れば困った結果になっています。

特にT1/2、Tmax、半減期といって、服薬して人体で薬がぐんと効いてくる強さ、時間が経ち切れてくるまでの時間が短い薬が良くないのです。

飲めばたちどころに気持ちが楽になって、すぐに切れてきて不安になってしまう。具体的には、エチゾラム(デパス)、アルプラゾラム(ソラナックス、コンスタン)などが該当します。薬の作用としてはアルコールに似ています。薬剤そのものの依存に注意しないといけませんが、何より不安障害の治療に有害と考えています。

その理由は2つあります。

①離脱症状

1つは、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の特徴です。安定薬と言われる薬です。飲み心地(効果が出る速さ)と持続時間と離脱症状で依存性になりやすいかどうかは決まります。

このように、服用したときは,たちどころに効いて不安はなくなりますが、時間が経てば切れてきて離脱症状が出てきます。離脱症状は、軽い不安や軽いパニック発作が出ているような状態です。つまり、頓服を飲んだ直後は安心しますが,時間が経つと不安が出てくるということです。

大事なことは、この不安は、薬が切れた薬理作用で不安になるのであってパニック障害の病気が悪化したのではないのです。しかし、パニック障害の人は「病気が悪化した」と思って、ますます頓服の薬に頼ってしまいます

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、一瞬で不安を楽にしてくれる「魔法の薬」です。しかし、デパス、エチゾラム,アルプラゾラム、ソラナックスなどは、

①急速に効果が表れ、持続時間が短いので切れてくるのが速いため→
②離脱症状がおこり→
③その離脱症状を和らげるためにまた薬を飲み…

となって、手放せなくなることが多いのです。
(その悪循環が続いて、うつ病などを発症することもあります。)

さらに、服薬を続けていくと、薬の魔法も薄らいできて、何回も量も多く服用しないと、不安は和らぎません。結局,不安に耐える力は弱くなって、パニック障害に悩むことになります。

では、頓服薬による依存が形成されてしまった場合はどうすればよいのでしょうか?

短時間作用型と長時間作用型を一緒に使い、離脱症状が現れないように様子を見ながら、短時間作用型のほうを先に減らしていき、短時間作用型の服薬を中止し、今度は長時間作用型を徐々に減らしていきます。
併用置換といって、離脱症状を最小限に抑えて減薬していく方法です。

②頓服薬に頼ると、自己効力感が育たず、不安はなくならない

2つめの理由は、学習です。

「薬を飲んだら楽になる」を繰り返すと、「飲まなかったら怖いことになる」「自分の力ではダメだ」と脳が学習してしまいます。

その結果、

①怖い場所や状況がますます怖くなり避ける。
②どうしても避けられないときには頓服を使う

といった、スタイルが定着します。

頓服薬、多くはベンゾジアゼピン系抗不安薬を飲んで一時的には不安は治まり、その場の困りごとを乗り切ることもできるかもしれませんが、長い目で考えるとパニック障害は改善しない、それどころか不安と向き合う力が弱まってしまうので悪くなり、うつ病へと進展することもあります

つまり、不安を感じたらすぐに頓服薬を飲む→すると不安は軽くなる→安心→薬が切れて不安になる→頓服といつもお守り代わりに頓服薬が手放せないと言うことになります。不安に向き合う力が弱くなります

薬の作用的には、ちょうどイヤなことがあるとお酒を飲んで忘れるのと似ているかもしれません。それでうまく行くと良いのですが、パニック障害の場合は、時として離脱症状や不安と向き合う力(自己効力感)の低下を招き、発作に対する不安がいつまでも続くことをお伝えしました。

上の数式を見てください、「不安と向き合う力(自己効力感)」が高まるほど、不安は小さくなることがわかります。頓服薬に頼るスタイルを続けると、いつまでも、不安と向かう力(自己効力感)が得られず、不安は小さくなりません

その結果、パニック障害は続いてしまうのです。分子の「脅威」や分母のサポートや不安と向き合う力はグループ認知行動療法が効くので、不安は小さくなります。