[硫黄欠乏、育たぬ稲 広島県内で拡大傾向]という中國新聞の報道

 


硫黄欠乏、育たぬ稲 広島県内で拡大傾向

中國新聞 デジタル 2022/06/14

土壌の硫黄が足りず、田植え後に水稲が成長できない事例が広島県内で確認されるようになってきた。窒素不足などと症状が似ているため長年見過ごされてきたが、2018年に県と東北大が水田を調査して浮上。早期に石こうをまくなどして硫黄分を補わないと収量の低下につながりかねず、県とJAが対策に動いている。

世羅町の水田で今月上旬、田植えをして3週間たった苗が早くも黄色くなっていた。枝分かれで茎の数を増やす「分げつ」も進んでいない。「田植えから1カ月後が症状のピーク。さらにひどくなる」。県東部農業技術指導所(福山市)の森上洋和主査は険しい顔で話す。放置すると穂の数が減り、米の量が約1割低下。味も落ちるという。

硫黄が不足すると植物の成長に必要なタンパク質が作れなくなる。同所によると、土壌に含まれる量が少ないほか、有機物の多い肥料で酸欠になった土や、銅や亜鉛を多く含む田で起きることもあるという。

森上主査が異変に気付いたのは16年。生育不良に悩む世羅町の田の改善に取り組んだ当初、窒素不足などが要因とみて、肥料を増やすなどしたが改善しなかった。18年に東北大の協力を得て県内の田を調べ、症状が出た場所で土壌の硫黄分が少ない傾向が判明。硫黄を補うと生育が改善した。

同町の農事組合法人穂(みのり)の宇坪実代表理事も生育不良に悩んでいた。県の助言を受け、田植え前の苗箱に石こうをまいて対策している。「見た目は酸欠症状と全く同じ。まさか硫黄が原因だったとは」と振り返る。

土や水に含まれる硫黄分は土地によってばらつきがある。硫黄が残りにくい花こう岩の土壌で、もともと硫黄分の少ないため池の水を使う広島の水田は欠乏しやすいという。昭和期に硫化水素の発生を嫌って硫黄を含む肥料を避けてきたことも遠因にある。JA全農ひろしま(広島市安佐南区)は硫黄を多く含む専用の土を開発し、必要な生産者に売るなどして対策を後押ししている。

硫黄欠乏の症状は三原、東広島、安芸高田市など標高の高い県中部や北部を中心に広がりつつある。東北地方や滋賀、岡山県でも同様の報告がある。森上主査は「米価が上がらない中で収量の低下は死活問題だ。硫黄欠乏が起きるということを生産者に周知し、対策につなげていく」と話している。