遺体のまわりで踊り狂う家族たち:昭和33年の大成村事件

最近、何だか物騒な事件が連続で起きていますが、ふと、作家の岩川隆さんの『殺人全書』(1985年)という本を思い出しまして、「そういや、昔もいろんな殺人事件があったなあ」と。

以下は、昭和33年の大成村事件という殺人事件についてふれている部分です。


岩川隆『殺人全書』第五章 古典的な確信より

昭和33年8月1日には北海道久遠郡大成村で大成村事件というのがおきている。

その日の午後、漁業で毎日を暮らす小野五郎さん(仮名・44歳)の妻タエ(仮名・42歳)ら三人が自宅の前で踊り狂っているのを近所の人が見つけた。

なにやら異常なので自宅に入ってみると、五郎さんと母・モトヨさん(仮名・70歳)が死んでおり、死体のまわりで他の家族が踊っていた。

大成村役場からの連絡で瀬棚署の署員が急行。事情を調べるうちに呆然とした。小野家は子ども九人という子だくさんの家族だが、7月30日の午後から戸締まりをして、一家12人が閉じこもって「祈り」をあげていたという。そのうちにタエたちが、

「祈りがたりない」

と、五郎さんとモトヨさんを非難しはじめた。母親・タエに加担したのは、長女のサヨ(仮名・19歳)、次女のキヨ(仮名・17歳)、三女のツルエ(仮名・16歳)、長男の元雄(仮名・15歳)の四人の子たちである。おそらく母親の熱狂に引きずられたものだろう。父親と母親に襲いかかった。

父親の五郎さんは、下半身を裸にされ全身の十数カ所を殴られて死亡。モトヨさんは、細い紐で首を絞められ、うつ伏せになって死んでいた。

踊り狂う母親と子どもを消防員たちが取りおさえ、漁協組合の倉庫に収容したという。四女・直子ちゃん(9歳)以下五人の子どもは部屋の中でわけもわからず、ふるえていた。

この子たちもいまは四十歳から二十代に成長していると思うと、どこでどう生きているだろうか、と複雑な気分になる。