ワクチン2回でクーポンやポイント、自治体が続々

 

ワクチン2回でクーポンやポイント、自治体が続々

産経新聞 2021/09/16

新型コロナウイルスのワクチン接種を終えた人に対し、自治体がクーポンやポイントなどの特典を用意する動きが加速している。2回接種者は国民の50%を超えたものの、副反応への懸念などから躊躇する人も少なくないとみられ、若年層などが接種を前向きに検討することを促す。新規感染者数が減少傾向にあることも踏まえ、秋以降の地域経済活性化との一挙両得も狙っている。

■「日常取り戻す」

奈良県は16日、2回接種した県民を対象に、感染対策に取り組む県内の飲食店で使える3千円分のクーポン券を発行するための費用7億5千万円を盛り込んだ補正予算案を県議会9月定例会に提出した。荒井正吾知事は「日常を取り戻すため、安全性を確保し、経済活動も刺激したい」と意気込む。

クーポン券は申し込んだ県民から抽選で20万人に配布。開始時期は11月末ごろを見込み、接種や感染状況を見極めて決める。アクリル板設置や換気の徹底など県が実施している感染防止対策の認証制度で認められた店舗で使える予定だ。

また、兵庫県は2回接種した県内在住・在学の18歳以上の学生を対象に、県のオンラインショップなどで使える2千円分のポイントを付与することを決めた。ワクチン接種の普及を前提に、宿泊・旅行業への経済振興施策も打ち出した。

県によると、ポイントの内訳は県産品のオンラインショップ「ひょうごマニア」専用分と自由に使える分が千ポイントずつ。受け取りにはウェブ上で専用の会員登録が必要だ。県は対象者を15万人と想定し、事業費1億1200万円を見込んでいる。

斎藤元彦知事は16日の会見で、若者の接種について「副反応は世代が若くなるほど一定出てくるが、それを上回る重症予防効果がある」と強調した。

■税投入に慎重論も

大阪府も若年層向けにワクチン接種のインセンティブ(動機付け)を与える取り組みを検討している。吉村洋文知事は16日、20~30代に接種するワクチンを確保したタイミングで、制度を構築する考えを示した。

吉村氏は、ワクチンの効果について「他人にうつすリスクは随分下がる」と指摘。「できるだけ社会を正常化していくためにワクチンを広げようと思っている事業者も多い。趣旨に賛同してもらえる事業者に割引券やクーポン券などを寄贈してもらえないかと考えている」と語った。

一方、大阪市の松井一郎市長は16日、同市での導入に関しては消極的な見解を示した。松井氏は「否定はしないが、税を投入するのは違うと思う」。その理由として、「民間企業がやるのはいいが、アレルギーや障害のためワクチンを打ちたくても打てない人もいるし、接種に不安を持つ人もいる。そういう人たちも納税者であり、配慮が必要だ」と話した。

■飲食店も特典

民間の飲食店やホテルにも、2回接種を終えた人に特典を設ける動きが広がる。外食チェーン「ワタミ」(東京)は6月以降、接種証明を提示した客に、ビールやハイボール、ソフトドリンク1杯を無料で提供するキャンペーンを実施。全国で展開する居酒屋やレストランなど300店舗以上が対象だ。

ただ、感染拡大「第5波」の影響による緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の拡大で、キャンペーンが行えなかった店舗も多かったという。8月末までに延べ2千人以上が利用したが、担当者は「宣言が長く続き、想定よりも利用者が少なかった」と漏らす。

今後、緊急事態宣言が解除されれば、利用が広がる可能性もある。キャンペーンは11月30日までの予定だが、担当者は「期間延長を含め、今後もワクチン接種証明を利用した企画を検討する」と話していた。

■「打てない人に証明書発行を」

新型コロナウイルスによる行動制限緩和について、政府は2回接種が完了した接種済証かPCR検査などの陰性証明の提示を求める仕組み「ワクチン・検査パッケージ」を活用する方針だ。一方で、政府の基本方針は「ワクチン未接種の人が不利益を受けないよう注意する」と言及。体質や持病でワクチンを打てない人への配慮は、これまで以上に重要になってくる。

関西福祉大の勝田吉彰教授(渡航医学)は、運転免許証の返納とともに、身分証などとしても使える「運転経歴証明書」をモデルに、パッケージに代わる証明書を国が発行すべきだと提言。「証明書には、アレルギーやアナフィラキシー、持病などワクチンを打てない理由を記載してもらう。証明書にパッケージと同様の効力を持たせることで、打てない人を救済する仕組みづくりが必要だ」としている。