NAC(N-アセチルシステイン)は、スパイクタンパク質の構造を「変形」させることにより ACE2 への結合を阻害する(感染を防ぐ)ということを示した論文

 


N-アセチルシステインを用いたSARS-CoV-2スパイクタンパク質の構造撹乱

tandfonline.com 2023/07/21

Conformational perturbation of SARS-CoV-2 spike protein using N-acetyl cysteine: an exploration of probable mechanism of action to combat COVID-19

概要

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 (SARS-CoV-2) によって引き起こされる感染症は、膨大な死者数と経済的影響を伴うパンデミックを引き起こした。

このウイルスは、スパイクタンパク質と宿主細胞上のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2) 受容体との非共有結合を介してヒト上皮細胞に付着する。

イン・シリコ(※ コンピュータを用いる解析)ベースの我々の研究では、溶媒にアクセス可能なジスルフィド結合の減少を通じてスパイクタンパク質の機能的に活性な立体構造を混乱させ、それによってその構造構造を崩壊させることが、ACE2酵素に対する結合親和性を低下させることによって感染を防ぐ実現可能な戦略である可能性があると仮説を立てた。

プロテオミクス (※ 構造と機能を対象とした研究)データは、臨床医学で広く使用されている抗酸化剤および粘液溶解剤である N-アセチルシステイン (NAC) が、天然状態ではジスルフィド結合していたスパイクタンパク質の溶媒にアクセス可能なシステイン残基と共有結合を形成することを示した。

さらにイン・シリコの分析の結果、NAC と Cys525 の選択的共有結合の存在により、相互作用するスパイクタンパク質の重要な残基の立体特異的配向が乱れ、その結果、スパイクタンパク質と ACE2 受容体との結合親和性が 3倍弱まることが示された。

興味深いことに、ほぼすべての SARS-CoV-2 変異体はスパイクタンパク質にシステイン残基を保存していた。

この発見結果は、ウイルススパイクタンパク質の Cys-525 を融合阻害剤として標的とし、生体内での薬物予防作用と新型コロナウイルス感染症に対するその治療可能性のある活性を探索するための NAC および、その類似体を同定するための分子的基礎を提供する可能性がある。

ただし、考えられる作用機序を検証するには、in vitro (※ 試験管内での研究)アッセイと動物モデルに基づく実験が必要だ。