米国の民間軍事会社「ブラックウォーター」の創設者の話がなかなか趣深い

 

驚いたのは、以下の言葉です。

> ブラックウォーターの兵力は140万人と、米軍の10%です。しかし、本部スタッフの数は同じなのです。

民間軍事会社に140万人の兵力があると。もし、こういう人たちが米国そのものに反旗を翻すと、いろいろですよね。


世界最強の傭兵企業ブラックウォーター創業者が語る「米軍の弱点」

courrier.jp 2024/02/11

米国によるアフガニスタン紛争でCIAの秘密任務を請け負い、イラク戦争で活躍したことで話題になった米国の民間軍事会社「ブラックウォーター」。その創設者で、米海軍特殊部隊SEALs出身のエリック・プリンスが、現在の米国が抱える問題について、米誌「IM-1776」に語った。

 

米国が誇ってきた「覇権」

米国という帝国は、ドルという基軸通貨と、自国の軍隊を通じて、世界の覇権を行使してきた。

ドルがこれほど長いあいだ覇権を握れたのは、1980年代以降、インフレ率を2%という妥当な水準に抑えてきたからだ。米軍がその地位を確実なものにできたのは、その覇権に疑いの余地がなかったためだ。

しかし、いまその両方が疑問視され、米国の衰退が実感されている。米国では生活必需品の価格は2桁のインフレに見舞われ、米軍の態勢は急速に衰え、その勝利はもはや確実ではない。

米軍の何が間違っているのかを理解するには、米軍事会社ブラックウォーターの活躍に目を向ける必要がある。同社が活躍したのは、軍隊が官僚主義的になりすぎていたためだ。

2005年、米南東部を襲ったハリケーン・カトリーナの直後、被災地の連邦政府施設の保護を担当したのも彼らだ。当時、警察の労働組合が介入し、警官の派遣が阻止されたためである。米ブルッキングス研究所の報告書には、「イラク戦争は、民間の軍事会社なしにはなしえなかった」と記されている。

2023年11月末、元海軍特殊部隊将校でブラックウォーターの創設者であるエリック・プリンスから話を聞いた。米軍の現状や、それをどう是正するかについてだ。彼の人生とキャリアから得た教訓などに関する話もあった。

 

「自浄作用」を失った米軍

──米軍の現状についてどうお考えですか?

私が主張したいのは、米国が平時に軍隊へ多くの資金を投入したことによって、特に9.11以降の軍内に悪い習慣が蔓延したということです。第二次世界大戦中、開戦当時の将校は、数年後にほぼ全員入れ替わっていました。しかし、9.11の後、米軍では人が一掃されることはありませんでした。肥大化した組織がさらに大きくなり、腐敗したのです。

米軍では、イラクとアフガニスタンへ派遣する兵士が不足していました。陸軍では通常、4人の大尉のうち、3人しか少佐に昇格しません。しかし、当時は95%が昇進し、さらに上の階級になりました。

自浄できない組織の状態は悪くなります。軍隊にはさらに多くの資金が投入され、ますます悪化しています。

──米国には戦争に勝とうとする気がまだあるのかと考えてしまいます。外交政策に関しても、ウクライナはおもちゃにされたようなものです。ウクライナ国旗は一時期どこにでも掲げられていましたが、新たな地政学的な火種ができたいま、目にしなくなってしまいました。この事態についてどうお考えですか。

ウクライナは負けるでしょう。人手が足りず、兵器も不足しています。早く策を打たないと、ウクライナはもっとずっとひどい目に遭いかねません。歴史上、殺戮や大損害のほとんどは戦争の最終局面に起きています。だからこそウクライナでの戦争の速やかな終結が不可欠です。

いまイスラエルに押し付けられようとしていますが、戦争にも勝てず、紛争を管理せず、外交的解決すら図ろうとしないのが米国流のやり方です。

ハマスの指導者は「ユダヤ人がいなくなるまで何度でも10月7日をやろう」と言っています。一方、バイデン政権は、イスラエルに圧力をかけ、自分たちを殺したい人たちのために便宜を図るよう、できる限りのことをしています。

──米国内部にもそのような動きがあるのではないでしょうか。

ええ、たくさんありますよ。というのも、ハマスの母体であるイスラム原理派組織のムスリム同胞団は、米国においても広い影響力を持っています。

米国の大学に対する最大の外部献金者であるカタールは、米国内のイスラム学生協会や、米国イスラム関係協議会などの組織と緊密に協力しています。彼らは、ISやアルカイダ、ハマスなどの資金調達源なのです。

 

時代の変化についていけない米軍の驕り

──米国が次に直接戦争で戦うとしたら、どうなるでしょう。

1800年代、海を支配した大英帝国の海軍は肥大化し、怠惰になりました。それから幅広い産業力と高い能力を備えたドイツの台頭に直面し、1916年のユトランド海戦でドイツと交戦して大きな損失を出しました。その後、大英帝国は終焉に向かったのです。

同様に、現在の米国海軍は古いやり方に固執しています。米国の空母戦闘群が台湾の近くを航行した際に中国に精密ミサイルを打ち込まれれば、米海軍はユトランド海戦での英軍のような目に遭うでしょう。そうなれば米国人は壊滅的なショックを受け、環太平洋の他の地域は、米国の覇権が終わったことに気づきます。その後、同地域の新たな覇権国は中国となるのです。

これは通常の戦線での話です。たとえばイランのような場では違います。イランは1つの絨毯に何千ものステッチを入れる、非常に計画的で几帳面な社会です。イエメンから船を奪ったり、ハマスに援助したり、イラクで大きく勢力を拡張しています。

イランが実質的に管理する「ハシュド・アル・シャビ」というイラクの民兵組織は、何千、何万の男性を米国に送っています。彼らはベネズエラに送られ、メキシコを北上し、最終的に国境を越えるのです。もしイランとの全面的な戦争になれば、彼らは動き出し、ハマスがイスラエルにしたような殺戮が米国内で起こるでしょう。

──ハマスが10月7日の攻撃のためにイスラエルの携帯電話データを購入したり、ウクライナが500ドルの中国製ドローンを使って、寝ているロシア人に手榴弾を投下しようとしたりしています。ドローンを妨害できない自律型兵器に変換させるのはそれほど難しくないでしょう。しかし、2015年にCIA職員と話した際、それらにどう対抗すべきか、彼らにはアイデアがありませんでした。

それこそが、肥大化した国防総省の危うさです。自分たちのカンフーは世界一で、誰にも負けないと思っています。しかし、現代では誰もが精密兵器を持つことができ、何かを載せたドローンを10歳の子供でも目標に飛ばせます。米国が何兆ドルも投資した兵器が、長期的に競争力を持つと考えるのは非常に危険です。変化すべき時にこそ勝たなくてはならないのです。

 

米軍に必要なのは真の改革

──国防総省が問題に向き合い、戦術的に進化するには何が必要でしょうか。大惨事でしょうか?

暴力的なサプライズが突然起きると、人々は自分たちのやり方を振り返り、改める傾向があります。しかし、9.11後の国防総省はアフガニスタンに侵攻しました。南北戦争においてリンカーンは北軍のトップを5人もクビにして、ようやく戦える人材を確保できました。どんな大きな組織も本質的に官僚的で、リスク回避的で、無知なのです。

──もしトランプが大統領に返り咲いたら、第二次世界大戦中の名将校ジョージ・パットンのような人物を国防総省に入れる可能性はあると思いますか?

トランプは前政権で、CIAや国務省などの国家安全保障機構をほとんどコントロールできませんでした。当時、変革的なリーダーも配置されませんでした。

いま、米軍に必要なのは真の変革です。国防長官レベルだけでなく、調達方法の改正、解雇や、解任・統合が求められています。

ブラックウォーターの兵力は140万人と、米軍の10%です。しかし、本部スタッフの数は同じなのです。デジタル通信、ビデオ会議などの時代なのに、肥大化を重ねています。本来、軍隊は行けと言われるまで辛抱強く待っている貪欲な攻撃犬のようであるべきです。そんな様子はいまの米軍にはありません。(続く)