[中国で不動産バブルが崩壊し金融危機が起きた場合の世界経済への影響は、リーマンショックと日本の金融危機の中間あたり…]という記事

 

ところが、そこにヨーロッパのエネルギーショックと、為替ショックと、アメリカの認知症ショックが重なりますので、もうちょっと上に行くような気がします。


中国、懸念される「金融危機」の問題…世界経済へ及ぼす影響を「過去の日本の金融危機」から考察

幻冬舎 ゴールドオンライン 2022/10/02

中国の不動産バブル崩壊と、それに伴う金融危機が懸念されています。この問題について過去に日本で起きた金融危機の状況と照合すると、複数の共通点があることがわかります。そこをたどると、今後の中国の状況が読み解けるかもしれません。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

中国の金融危機を心配している人は多いが…

中国で不動産バブルが崩壊し、金融危機が起きると心配している人も多いようです。現在は不動産開発業者の倒産可能性等が注目されているようですが、それが金融危機に発展しかねない、ということのようです。

筆者は中国の事情に詳しくありませんが、金融危機を心配している人が多いのであれば、そうした人々に日本の経験を復習してもらうことで、中国の今後について考える参考になるだろうと思います。

中国の専門家は、日本の過去に必ずしも詳しくないでしょうが、高度成長から安定成長に移行した真の原因(石油ショックは単なる契機で、本当は産業構造の変化等が重要だった、等々)や金融危機の経験等について学ぶと、中国の今後を予想する際に役に立つ、というのが筆者の認識です。

不動産の暴落が「さらなる暴落」を招くメカニズム

不動産価格が、主に実需(自分で住む目的や賃貸する目的での買い注文)によって上昇しているときには、仮に価格が暴落しても、売り注文が激増することはないでしょう。自分で住んだり貸したりしているのであれば、そのまま住み続けたり貸し続けたりすればいいわけですから

しかし、主に投機目的の買い注文によって不動産価格が上昇しているとき(バブル的な状況)に不動産価格が下落を始めると、それまで買っていた投機家たちが買いから売りに一斉に転換するので、価格が暴落しかねません。

そうした暴落は、人々の値上がり予想を値下がり予想に転換させるので、買い注文をさらに減らし、売り注文をさらに増やし、さらなる暴落を招くことになるでしょう。

銀行も不動産担保融資を避けるようになりますから、借金で家や土地を買いたいと考えている人々が、家や土地を買うことができなくなってしまいます。これも需給を悪化させて不動産価格の暴落を加速させる要因でしょう。借金の借り換えができずに、買った不動産を手放す人が増えることも、不動産価格の暴落を加速させるはずです。

金融機関相互の資金貸借が凍りつく

不動産が暴落すると、不動産担保融資の焦付きが激増し、金融機関の多くが赤字に転落します。なかには倒産が懸念される金融機関も出てくるでしょう。そうなると、金融機関相互の資金貸借が凍りつくことになります。

金融機関が取引先に融資をするときには、返済能力をしっかり調べたうえで、担保を徴求し、利ザヤも確保するのが大原則です。時として、過当競争により担保を省略したり、利ザヤが薄くなったりする場合もありますが、それでも最低限の利ザヤは確保するはずです。

一方で、金融機関相互の貸借に際しては「倒産しない」という前提で返済能力を調べず担保もとらず、利ザヤもなしで貸すのが原則です。したがって、金融機関の倒産が少しでも懸念されれば、金融機関がほかの金融機関に金を貸すことを嫌うようになります。

そうなると、ほかの金融機関から金を借りている金融機関は大変です。顧客から融資を回収して借入を返済しなければならないからです。それ自体が商売を失うことでつらいのですが、さらにつらいのは銀行から「貸し渋り」をされた借り手の顧客です。

もっとも、中国の場合には国有銀行が多いので、政府が救済する前提で資金貸借が行われ続けるかもしれませんし、実際に政府の資金が大量に注入されるかもしれず、そもそも貸し渋りは発生しないのかもしれませんが。

銀行の貸し渋りで、借り手が大量倒産する可能性も!?

取引銀行から融資の返済を求められた借り手は、ほかの銀行から借りようとしますが、それは容易なことではありません。第一に、銀行は新規顧客への融資に際して慎重な審査をするからです。第二に、他の銀行も自分の資金繰りを気にして融資を絞る可能性があるからです。

銀行は、借り手の信用力をしっかり調べたうえで融資をするのが原則です。既存の取引先であれば、相手の状況がわかっているので「また貸して下さい」「わかりました」ですむかもしれませんが、新規顧客からの借入申し込みに際しては、慎重に信用力を調べるので時間がかかります。

他行に貸していた銀行は、貸出を回収するので資金的な余裕はありますが、それを金庫に積み上げて貸出には用いないかもしれません。「銀行が倒産するという噂が流れ、預金者が一斉に預金を引き出しに来たら(取り付け騒ぎになったら)困る」というわけです。

問題が深刻なのは、軽微な問題がある借り手です。銀行は、既存取引先に軽微な問題が生じても、融資を無理に回収せずに回復を待つ場合も多いのです。無理に回収しようとして倒産されると、回収額が大幅に減ってしまう場合があるからです。

しかし、軽微な問題がある借り手が取引銀行から返済要請を受けた場合に、ほかの銀行に融資を頼みにいっても、融資が受けられる可能性は非常に低いわけです。したがって、取引銀行が貸し渋りを始めると、軽微な問題を抱えた借り手が大量に倒産する可能性もあるわけですね

公的資金の注入に苦労した日本政府

銀行の資金繰りの問題は、中央銀行が銀行への融資を弾力的に実施すればなんとか乗り切れますが、さらに厳しいのは自己資本比率規制による貸し渋りです。

大胆に簡略化していえば、世界中の主な銀行は条約によって「自己資本の12.5倍までしか融資してはならない」と決められています。そこで、銀行が赤字になって自己資本が減ってくると「貸してもいい金額」が減ってくるのです。

それによって銀行が融資を回収せざるを得なくなると、中央銀行が銀行の資金繰りを支援しても効果はありません。金がないから貸せないのではなく、「金があっても貸してはならない」からです。

そうなると、政府が銀行に増資をさせてそれを引き受けて(公的資金の注入)、銀行の自己資本を回復させることが必要となります。銀行の自己資本が回復すれば、銀行は貸し渋りをしなくてすむようになるからです。

しかし、それには世論の反対が強いので、日本政府は大変苦労しました。「銀行を助けるために国民の血税を使うとはケシカラン」という反対が強かったのです。世の中の人々は自己資本比率規制のことをしらないでしょうから、「公的資金の注入が、結局は貸し渋りを受けている中小企業を助けることになる」ということがなかなか理解されなかったわけですね。

もっともこれについては、中国政府が世論をどれくらい気にするのか、という点が要注目でしょう。世論を気にせず、いいと思った政策を断行するということであれば、問題が深刻化を免れる可能性もありますね。

筆者としては、中国共産党の経済に対するグリップは日本政府より遥かに強いので、今回も「政府が何とか切り抜ける」可能性が高いような気もしていますが、そのあたりは中国の事情に詳しくないので…。

世界経済への影響は「中程度」か?

日本の金融危機は、日本円の世界でのできごとでしたから、影響は日本経済に限定されていました。

しかし、リーマン・ショックは米国の金融危機であり、基軸通貨である米ドルの「信用収縮(貸し借りが滞ること)」が起こったので、世界の金融が大混乱に陥りました。その意味では、中国で仮に金融危機が起きても、日本の場合と同様に、世界の金融市場への影響は限定的でしょう。

日本は輸入が少なかったので、金融危機で景気が悪化して輸入が減っても、世界経済への影響は限定的でした。しかし、米国は巨額の輸入をしているので、リーマン・ショックで景気が悪化すると世界中からの輸入が大きく落ち込み、世界の経済に貿易面でも甚大な影響を及ぼしました。

中国も世界中から大量の輸入をしているので、中国経済が金融危機等によって深刻な不況に陥れば、世界からの輸入が激減し、その面で世界経済に甚大な影響を及ぼす可能性は高いでしょう。

そうしたことを考えると、中国で不動産バブルが崩壊して金融危機が起きた場合の世界経済への影響として、リーマン・ショックと日本の金融危機の中間あたりを考えておけばいいのかもしれませんね。

一方で、中国経済の失速は日米欧にとって恩恵となり得るという考え方もあります。資源価格の下落等が期待できるからです。そのあたりのことは別の機会に。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。