ジム・ロジャーズさん、急に老け込みました?
ジム・ロジャーズ「日本の食は今後危なすぎる」
東洋経済 2023/03/29
低迷する食料自給率が新たな危機を生む
皆さんもご存じのとおり、日本は食料自給率が低い。食料自給率とは、その国に供給される食料のうち、どれくらいの割合を国産が占めているかを示す数字で、分子を「国内生産」、分母を「国内消費志向」として算出される。
これは、小麦、大豆、牛肉などいろいろな品目ごとに算出されているが、肉類を国内で生産するために必要不可欠なのが、とうもろこしなどの飼料である。日本は、この飼料自給率も低い。
たとえば、牛肉を1㎏生産するために必要な穀物は、とうもろこしで換算すると11㎏、豚肉では6㎏、鶏肉では4㎏だ。これだけの量のとうもろこしを収穫するためには、潤沢な農地が必要であることは容易に想像できるだろう。肉類の安定供給を図るためには、外国産の飼料に頼りきりでは心もとない。食料安全保障上、これは非常に危ういことである。
食料安全保障とは、その国に住むすべての人が生命を維持し、活動的で健康的な生活を送るために、将来にわたってよい食料を適正な価格で手に入れられるようにすることで、これは国家の責務だ。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界レベルで状況が悪化したことを受け、多くの国々が食料安全保障の重要性を再認識することとなった。
世界のなかでも、とりわけ日本は深刻な状況にある。もともと食料自給率が低いことに加えて、急激な円安なども重なっているためだ。
こうした背景のなか、食料価格は高騰している。この状況が続けば、食料を入手できない人も出てくるだろう。国民の生活への影響は計り知れない。
日本の人口は、10年間ほど減少を続けているが、労働人口が減り続ければ、食料、そのほかの価格は今後も上がり続けるだろう。
過去を振り返ると、食料危機や食料価格の高騰をきっかけに暴動が起こり、崩壊してしまった国は多数存在する。主食であるコメの高騰が続いたとしたら、日本国民はさぞかし困るだろう。そのような状況にならないよう祈っている。
過度の保護主義をやめ、外国人労働者を雇え
では、どうすれば「食料安全保障」に関する諸問題を抜本的に解決できるだろうか。
たとえば、ブラジル、オーストラリア、アルゼンチン、ロシアなどの国が大量の農産品を輸出しているが、こういった国は広大な土地を保有しているので農地が潤沢だ。つまり最初から優位に立っている。
逆に、日本やシンガポールなどといった国土の小さい国が、土地を増やすことは難しい。こうした国においていちばん重要なことは、農家の保護主義をやめることだ。
日本は、主に次の2つの保護策をとることで自国の農家を守っている。
1つ目は、輸入食料に高い関税を課すことだ。
コメを例に挙げよう。外国産の安価なコメが国内に輸入されると、「より安価なものが有利」という資本主義経済の原理によって、価格の高い国産米は市場から排除されてしまう。
しかし、外国米の関税を高くすればどうなるだろう。相対的に国産米のほうが安価になり、国産米の需要が増える。なお、外国米にかけられる関税は280%である。
2つ目は、所得補償などといった経済的支援だ。当然、税金があてられる。
こうした過保護を見直すことが必要だ。
多くの日本人は、「日本米はほかの国のコメよりもずっとおいしい」と思っているかもしれない。しかし、日本品種はアメリカや中国でも生産されていて、中国産(日本品種)のコメの価格は、国産米の実に約5分の1~10分の1の価格で販売されている。
これはすべての農作物にいえることだが、まずは安価でないかぎり、日本の農作物は国際競争力が低い。
農作物をより安価にするためには、生産量を増やすことも重要だ。そのためには人手を増やすことが必要になる。
農業大国・アメリカでは、積極的に外国人労働者を雇って人手を確保している。この点においては、日本はアメリカをロールモデルにするべきだ。
漁業が抱える課題も、農業と同じ
食料自給率という点では、農業だけではなく、漁業についても考えておく必要がある。
「日本は島国という地の利を生かし、漁業でよいポジションをとれるか?」という問いに対しては、私は必ずしもそうではないと答える。なぜなら、日本の魚は非常に高価だからだ。
たとえば北朝鮮においても日本と同じような魚介類がとれるが、非常に安価だ。おそらく北朝鮮はその魚を中国に売り、中国はそれを「中国産」と呼んで売っているだろう。
ここで課題になるのが、農業と同じく「誰が担い手になるか」である。日本国内の担い手は、平成から今まで絶えず減少している。1988年から2018年までの30年間で約60%も減少し、15万1700人となってしまった。解決のための選択肢は、
1. 少子化に歯止めをかけて、子どもを増やす
2. 移民を積極的に受け入れる
この2つだ。漁業従事者を増やすことと、漁業の収益性および魅力の底上げが重要だ。
近ごろ、日本政府は「毎年6万9千人の外国人を受け入れる」と言ったが、総人口1.25億人に対して、これはとてつもなく低い数字と言わざるをえない。受け入れる外国人を増やすことに加えて、彼らに永住権だけではなく国籍も与えるなどの工夫が必要だ。
食料自給率を上げることは食料安全保障のうえで不可欠だが、そのためには農業や漁業の担い手を育てることが欠かせない。国内に担い手が乏しいなら、海外に求めるべきだ。私は日本を愛し、この国の食べ物が大好きだ。日本の食文化を守るためにも、食料自給率向上を目指し、今すぐ行動してほしい。