私の住む沿線は、東京の高田馬場という駅で山手線と乗り換えとなっています。
そのため、東京に出る時には、ほぼ毎回、この高田馬場という駅を使うのですが、ここ数年は、ただ乗り換えるのではなく、夕方以降なら、ちょっと飲んで帰ることが多いです。
高田馬場は、基本的には学生街ですが、店を選べば、「学生さんなどまったくいない」という店は結構あります。
先日も東京に行く用事がありまして、高田馬場に夕方過ぎに立ち寄りました。
高田馬場には、さかえ通りという飲食店がひしめく通りがありますが、ここはいつも学生さんたちで混雑していまして、私はいつもそこから少し外れて店を探したりいたします。
駅の高架の横に細い道が通っている場所があり、そこは、小規模なバーとか飲み屋さんが連なっているのですけれど、そこにひとつのバーがあります。
バーというのか、毎日ちがう店番さんがいて、それは女の子の場合もあるし、男の子のこともあるし、結構適当な店なのですが、その緊張感のなさが気に入って、たまに立ち寄ります。
食べ物はないですが、その分、チャージもないですので、お値段もお安いです。
先日、そこに行ってみると、知らない女の子が店番をしていました。
早い時間(午後7時くらい)だったこともあり、お客さんはひとりもいませんでした。
ここはいつもドアが開いていて、外から中に声をかけられます。
「ひとりだけど、いいですか?」
「どうぞ」
ということで、店内に入りました。
カウンターが 5席と、テーブルが 2つくらいの小さな店です。
この店は、いつも結構な音量で音楽が流れているのですが、音楽は、店番の人が、「自分のスマートフォンのイヤホーンジャックにスピーカーのコードをつなぐ」ということになっていまして、つまり、「店番の子たちの好きな音楽が流れている」のですね。
お店に入った途端、私は、
「あれ?」
と言いました。
「アナーキー・イン・ザ・U.K.じゃないの」
と言うと、女の子は、
「知ってるんですか?」
と言います。
このアナーキー・イン・ザ・U.K.というのは、1970年代後半のセックス・ピストルズというバンドの曲です。
私 「知ってるも何も、オレは中学生の時にこのアルバムを聴いてすごくショックを受けたのよ。ここからすべてが変わったの」
女性「そうなんですか? リアルタイム?」
私 「そうなんよ。1978年頃だったかなと思うけど、リアルタイムでレコード買ったのよ」
女性「いいなあ」
私 「でも、きみはこんなの聴く世代じゃないでしょ」
彼女は、金髪の髪を結んで、鼻と口に小さな銀のピアスをつけている小柄な女の子で、便宜上、名前は、まりかちゃんとしておきます。美容師になるための学校に行っていると言っていたので、20歳前後ですかね。
私 「それにしても、お店でセックス・ピストルズ聴いたの初めてかも」
女性「どの曲が好きですか?」
と言って、まりかちゃんは、音楽をかけているスマホの画面を私に見せます。そこにアルバムの曲一覧が並んでいました。
女性「かけましょうか?」
私 「いいよ、いいよ。きみが好きなのかけなよ」
その後、私はラムのロックを飲み、まりかちゃんにも、一杯おごりました。
私 「それにしても、どうしてこんなの聴くようになったの?」
女性「私、沖縄出身なんですけど、沖縄にいた時にお父さんの車に乗ってると、お父さんがいつもかけてたから」
私 「ああ、お父さんがそっち系。お父さんと仲いいの?」
女性「仲いいですよ。お父さんが聴いてるのを中学生くらいから聴いて、いろいろ知ったんですよ」
私 「お父さん、他にはどんなの好きだったの?」
女性「いろいろですけど、イギー・ポップとかデビッド・ボウイとか、ニルヴァーナも好きでした。知ってます?」
私 「どれも大変よく知っておりますよ。でも、そんな趣味だと、同世代の人たちと音楽の話、合わないでしょ」
女性「うん、合わないことが多い」
私 「パンクは特にね」
女性「あと、わたし、アース・ウインド・アンド・ファイヤとか、それと、70年代のディスコなんかも好きなんですよ」
私 「ああ、それはさらに同世代と確執が・・・。そして、それらもオレはリアルタイム世代なんだよね。ディスコブームの時代に高校生くらいだったから」
女性「いいなあ」
私 「1970年代後半は、どんな趣味の人たちでもエネルギーが噴出してた。パンクでもロックでもディスコでもアイドル好きでも、すごかったよ。それぞれがギラギラしてたから」
女性「そんな時代見たかったなあ」
私 「確かに、自分では最高の時に生まれたと思っている。でも、どの世代に生まれるのかは決められないからね。生まれた世代で楽しむしかないんだよ」
女性「なんで今の音楽はつまらないんだろうね」
私 「今は、音楽という存在そのものが、商業にがっちりガードされているから、昔みたいな自由は含まれにくくなっているんだよ」
というような話をしながら、1時間ばかり飲んでいました。
帰る前に、
「今度その頃のパンクとかロックをUSBかなんかに入れて持ってきてあげるよ。まだ知らない素敵な音楽がたくさんあると思う」
と言うと、すごく喜んでくれました。
「えと、お名前は?」
「オカです」
「じゃあ、オカさん、本当にパンク待ってきてね」
そんなわけで、どの曲を持っていってあげようかと思案中でございます。