1999年頃でしたので、もう20年前ということになりますかね。
その頃、私はひとり暮らしをしていたのですけれど、部屋に「架空の恋人」がいることがありました。
「架空の恋人」というのは妙な響きですけれど、今にしてみても、彼女が実在していたのかどうかよくわからなくて、でも、たまに部屋に彼女はいました。
身長は150センチ前後くらいで、スリムで、全体として、とてもちっちゃな女性でした。
年齢は二十代だと思いますけれど、正確な年齢を聞いたことはありません。
名前も彼女自身が名乗る不思議な下の名前以外は知りません。それは奇妙な響きの名前でしたけれど、ここでは、リナちゃんとしておきます。
ショートボブの白っぽい金髪で、耳に複数のピアスがありました。濃い化粧はしない人で、全体的に「白い感じ」の女性でした。
「架空の」としたのは、なぜ彼女と知りあったのか、どうして私の部屋にいるのかが、よくわからないのです。思い出せないというより、わからないのです。
普通に考えれば、泥酔か何かしていて記憶のない時に知りあったということなのかもしれないですけれど、とにかく、気づいた時に彼女は「部屋にいた」のでした。
それ以来、週に一度か二度、夜、私の部屋に来て、たいていは、明け方にいなくなりました。
当時はみんなが携帯電話を持っていた時代ではなく、私も彼女も携帯電話を持っていなかったせいもあるのでしょうが、「連絡先はお互いに知らない」のでした。
なので、接点は、「私の部屋に来ること」だけでした。
当時の私は、一人暮らしですし、そもそも盗まれて困るようなものも部屋にはないですし、外出する時にマンションの鍵を掛けることはなく、「家に帰ると誰かいる」ということは、リナちゃんだけではなく、何度も経験していました。
リナちゃんが私の部屋にいる時には、彼女は私に寄り添って過ごしていました。そして、私はお酒を飲む。
そういう時期が3ヵ月だったか、半年くらいだったか続きました。
そして、いつのまにか接点は消えました。
接点が消えた時のこともよく思い出せなくて、何となく「現実感がない」まま過ぎた彼女との時間でした。
いちど、「恋人はいるの?」ときいたときに、
「だんながいる」
と言っていました。
「結婚してるってこと?」
「とにかく、だんながいる」
とだけ言いましたけれど、それ以上は、何もききませんでした。
「あれから20年かあ」
と思います。