韓国全土にアフリカ豚熱拡大 ワクチンなくお手上げ状態
朝鮮日報 2022/04/28
野生のイノシシを介してアフリカ豚熱(African Swine Fever=ASF、以前の名称:アフリカ豚コレラ)が韓国全土に広がりつつあり、政府が対策準備に頭を痛めている。熱病にかかったイノシシが移動できないよう、移動経路の各地に鉄柵を立てたものの、十分でない状況だ。
初めて野生のイノシシからASFが見つかったのは2019年、京畿道漣川郡でのことだった。このイノシシは北朝鮮から非武装地帯(DMZ)を通って南下してきたという説もある。
これに対して、韓国環境部では韓国軍部隊と協議してイノシシの南下を阻止することを目標に、819億ウォン(約83億1400万円)かけて京畿道坡州市から江原道高城郡まで1418.3キロメートルにわたり鉄柵を設置した。
しかし、南北を縦断する山脈「白頭大幹」に沿って移動するイノシシの経路を物理的に断ち切るのに十分でなかった。京畿道・江原道一帯で発見されたASFは最近、政府の防衛線を突破して慶尚北道尚州市や忠清北道報恩郡まで広がっている。2019年に最初に発見された地点から慶尚北道尚州市功城面まで、直線距離にして239キロメートルも南下した。
ASFはヒトを含めイノシシ科以外の動物には感染しない「豚の伝染病」だ。しかし、感染速度が速く、致死率が100%近いため、養豚農家に広がると致命的な被害が出る。このため、対策づくりが急がれている。
環境部が27日に明らかにしたところによると、ASFは今年673件発生し、累計2548件に達した。2019年以降これまでに21の農家が被害を受け、豚12万頭が殺処分された。
新たに報告された民間農家被害事例はまだないが、ASFで被害を受けて殺処分を行った韓国国内21の養豚農家のうち、事業を再開したのは6カ所だけだ。
時点の被害地域は江原道・京畿道・忠清北道・慶尚北道などとなっている。政府は韓国全土のイノシシの5-8%がASFに感染したとみている。「韓半島(朝鮮半島)全域にASFが広がるのは時間の問題だ」と懸念されているのもこのためだ。
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結局はイノシシにワクチンを投与して感染を防ぐしかない。しかし、白頭大幹に沿って移動する韓国の野生のイノシシ(推定6万-13万頭)を捕まえて注射をするというのは現実的に難しい。このため、「餌ワクチン」、すなわち餌にワクチンの成分を混ぜ、イノシシにこれを食べさせてASFに対し免疫力を持たせるという方法が研究されている。
韓国では疾病管理院が中央ワクチン研究所・忠南大学と共に国内のイノシシの分離株を利用して「韓国型ワクチン」を開発している。
環境部と民間企業のコミファームは、米国で開発されたワクチン候補株を取り入れて適用する案を協議している。問題は実験だ。ワクチンに効果があるかどうかイノシシを相手に実験しなければならないが、この条件すらきちんと確保できていない状態だ。
動物実験をする実験室も不足しているのが実情だ。民間企業では「野生のイノシシを相手に早く実験をし、その結果を見るべきだ」と主張しているが、環境部は「その過程でASFがさらに広がったらどうするのか」と反対している。
世界的に見ても開発されたワクチンがなく、「かかると死ぬ病気」がASFだ。
2019年にASFが初めて発見された中国では、ASFが風土病として定着するのを防ぐため、国を挙げてワクチン開発に着手しているところだ。
韓国の業界では「イノシシ用『餌ワクチン』が出なければASFの全国拡大は時間の問題だ」と懸念している。政府はこれまで広域フェンスや死骸捜索戦略などを実施してきたが、2年以上にわたって流行拡大を防げていない。
政府はイノシシの餌にワクチンを注入する「餌ワクチン」を2024年までに開発するという方針だが、容易ではない状況であり、家畜の豚が感染した場合に接種するワクチンの開発も進んでいない。
環境部はASFが近いうちに慶尚南道・全羅北道・全羅南道などほかの地域にも広がるとみて、27日に各道の公務員を対象とした防疫教育を開始した。環境部関係者は「今は農家にASFが拡大するのを防ぐことに集中する。長期的には餌ワクチン開発に総力を挙げることになるだろう」と語った。