薬剤耐性をもったイネカメムシが日本各地に出現している模様





[農家の特報班]薬剤まいても再発生 イネカメムシ防除難航

日本農業新聞 2024/08/13


「ドローン防除後にも関わらず複数のイネカメムシが見つかった」という情報を寄せた読者が撮影した写真(埼玉県加須市で)

 

イネカメムシが水稲の出穂前に多数飛来してきたことを報じた本紙「農家の特報班」の記事を受け、複数の読者から発生動向の情報が寄せられた。詳しく状況を聞くことができた読者の情報を分析すると、通常の斑点米カメムシ類には見られないある共通点が見えてきた。

薬剤を散布したのに再び発生しているーー。調査のきっかけは埼玉県加須市の男性からのメッセージだった。

男性は出穂直後の7月7日、自身の水田で同害虫を見つけ、ドローンで水和剤を散布した。さらに、その2日後に再び多数の同害虫を確認。「弱っているものもいたが、元気に逃げ回るものもいた」と当時の状況を話す。

この男性以外からも同様の情報が複数寄せられた。

兵庫県市川町の男性は、出穂後の16日に、自身の水田で同害虫を見つけて、水和剤を散布したが2日後に確認したという。25日に再度散布するも、直後にまた見つかった。「さらに追加防除をすべきかどうか悩んでいる」と打ち明ける。

群馬県館林市の男性は出穂前にもかかわらず自身の水田で同害虫を多数発見した。発生した場所に粒剤を散布したが「10日が経過してもいなくならなかった」。

さらに水和剤を散布し、その2日後に粒剤もまいた。「ひっきりなしに飛来してくる。不稔(ふねん)や斑点米防止のため、少なくともあと数回の散布は覚悟しているが、コストがかかる」と頭を抱える。

 

従来と違う傾向

いずれの投稿者も、「これまでの斑点米カメムシ類にはない傾向」と口をそろえる。使用した薬剤の使用期限は切れておらず、大雨などで流されたこともなかったという。

農研機構に問い合わせると「イネカメムシに効果がある薬剤ではなかった可能性もある。防除効果に疑問がある場合、地域の防除所などに相談してほしい」(病害虫防除支援技術グループ)との答えが返ってきた。

記者は、イネカメムシに使われる薬剤の効果を把握するため、全国の研究機関がまとめる研究成果などを洗い出した。すると、薬剤散布後の再発生の謎を解き明かすヒントになるような情報を見つけた。

 

耐性発達、暖冬も影響

「一部の地域では、エチプロール水和剤で、イネカメムシに対する感受性が低下している事例が生じている」

愛知県が7月17日に発表した同害虫の注意報の中に、そんな記述があるのを見つけた。

より詳しい内容を探るため、同県農業総合試験場に取材した。感受性低下を招いた要因として、同試験場は「薬剤を地域単位で毎年連用したことで、その耐性を持ったイネカメムシが増えた可能性が高い」(病害虫防除室)とみる。

突然変異などで耐性を持つ個体が生まれ、世代交代を繰り返すことで感受性が低下することは珍しくない。

同試験場は「薬剤の連用によって、耐性を持つイネカメムシは毎年一定数発生する」とした上で、「出穂した稲を追いかけて移動するので、先々で薬剤を浴びる。それでも生き残った強い虫が繁殖することで、他の斑点米カメムシよりも短い時間で耐性を持つ虫が増えているのではないか」と推測する。

今回、薬剤散布後も発生していると情報を寄せた3人の地元の県の研究機関によると、薬剤感受性の検証や、特定の薬剤の連用も確認されていなかった。

だが、埼玉県病害虫防除所は「防除体系によって効きにくい薬剤が出てくる可能性はある」と指摘。「今後データを集めていきたい」との考えを示した。

 

捕食されにくく

もう一つ、記者が気になったのが昨年の暖冬の影響だ。越冬数が増えていることが薬剤散布後の再発生に結び付いているかどうかも調べた。

埼玉県病害虫防除所に尋ねると、「越冬数が多いと、防除しても外から水田に飛来してくる数も多くなることがある」との回答を得た。

同防除所が7月8日に発表した同害虫の注意報によると、予察灯の誘殺数は同月3日時点で122頭。多発した昨年を既に超えており、今年の発生数の多さを指摘している。

暖冬に加えて、同防除所は、カメムシ類の中でも大型であるため「他の虫に捕食されにくいことで、生息数がさらに増えている可能性がある」とみる。

 

山間の田で発生

3人の投稿者以外にも発生情報が寄せられ、計8人に詳しい話を聞けた。発生時期が前倒しになっていたり、周囲に耕作放棄地があったりと、現場での発生実態が見えてきた。

兵庫県淡路市の男性は出穂前に発見し「例年より1週間早い」とした。他の水田と比べて、出穂が早い水田に集中しているという。福岡県築上町での発生状況を伝えた男性も「昨年と比べて多く、(発生時期も)早いと感じる」と話す。

初めて見つけたという大阪府高槻市の男性は、その場所を「山間部の水田」と説明。発生量が多いという千葉県勝浦市の男性は、水田の周りに「不耕作地が多い」とのメッセージを寄せた。

農研機構の病害虫防除支援技術グループによると、同害虫は、山や雑木林の落ち葉の下、イネ科雑草の株元で越冬し、稲の出穂に合わせて越冬地を離れ、水田に飛来する。そうした習性を踏まえ、東海地方では、防除対策の一環で、山沿いの雑草地や遊休地の除草を検討している地域もある。


[ことば]イネカメムシ 1970年代後半以降、ほとんど確認されていなかったが、2020年ごろから関東以西で発生と被害が見られるようになった。成虫は茶褐色で体長1センチを超える大型の斑点米カメムシ類。成虫で越冬する。