MINA ロゴ 2007.3.18 再掲しています。
ミナ - キャバクラ嬢という名のある少女との8ヶ月
INDEX
  1. 架空の花
  2. 17歳
  3. 人形

  4. 下界は春の夜
  5. D-DAY
  6. 春の終わり
※ この後は2002年に執筆を放棄したままです。続きを書くかどうかはわかりません。



プロローグ



私が「ミナ」という名前を持つ元キャバクラ嬢の話を書き始めた時には実はすでに私とそのミナという少女との思い出話は遠い記憶となっていました。

忘れたいという気持ちがあったというよりは、単に時間の流れはそれだけで強いものだということです


ミナを書き始めた時には、すでにミナと最後の会話を交わしてから、 つまり完全に関係が絶たれてから2年ほど経っていた後の話で、いくらミナが思い出深い記憶を残してくれた少女だったにしても、私にはミナ以外との様々な付 き合いや実社会の生活の比重の方が大きくなっていたのです。

つまり、ミナとの記憶はもうそのまま埋もれても構わなかったわけです。
それが途中まで書いていた「ミナ」の続投を放棄した理由でしたし、書いていたこと自体をさえ忘れかけていました。

ところがです。

2002年の春頃だったでしょうか。
正確には5月の終わり頃、私の携帯に見知らぬ名前の女性から電話がありました。
聞けば、私が夜の街で放蕩しまくっていた頃にミナと同じ店にいたという女性で、実際にミナを含めた複数で私とアフターしたこともあると彼女は言っていましたが、私には誰だか思い出すこともできませんでしたし、また、仮に思い出したところでどうなるものでもありません。


いずれにしても、その女性はこう切り出しました。

「変な電話だとは思うんですけど」


「変な電話というと?」

と、私は返しました。

 「あたし、あの後もミナとは付き合いを続けていて、友達だったんですけど、ミナのその後のことは知ってましたか?」
「風俗に行ったでしょ、ミナ」
「知ってたんですか」
「うん。偶然知ったんですよ。でも、その頃はすでにミナとは会ってなかったから、その事実を本人から聞いたわけじゃないです」
「風俗は2ヶ月くらいでヤメたんです。ミナはまた夜やったりいろいろしてたんだけど……」
「ええ」
「今年の1月くらいに電話があって、ミナ、恋をしてるって言ってたの」
「恋ですか」
「そういうこと口にしたことない子だったから驚きました」

ミナがキャバクラ嬢をやめた後に風俗に行ったことについては、かなり希有な偶然で私は知っていました。
私は当時、雑誌の編集やレイアウトの仕事をフリーランスで行っていて、その仕事の中には風俗雑誌もあって、ある風俗雑誌の編集作業中に私は偶然、裸体でポーズをとっているミナを見つけてしまったのです。
職種はイメクラでした。
もちろん、ミナという名前ではなく、人気のタレントと同じ名前で紹介されていました。

私にはその理由がよく分かりませんでした。
情報として、私は風俗関係の女性の給与なども知ってはいましたが、少なくとも人気のあるキャバクラ嬢と比較するほど飛び抜けて高いものではありません。
もちろん、どちらの仕事も本人の人気や美貌とも関係はありますが、ミナくらい指名の多かった人気キャバクラ嬢なら、ヘルスやイメクラ嬢との給与の差は驚くほどのものではなかったはずです。
何も裸の仕事をすることもあるまい、とは思いました。

「どうして、ミナ、風俗に行ったの? キャバクラでもまだ十分稼げたでしょう。」
「その好きになった人が、ミナに風俗を勧めたらしいんです。でも、風俗あんまり好きじゃなかったみたいで結局はヤメたんだけど」
「それって、単純に騙されてたんじゃないの?」
「私もそう思ったんだけど、ミナが男に騙されるって、なんか有り得ないじゃないですか」
「うん……まあ」
「でも、結局、その男には捨てられたみたいな形になったみたいで」
「ミナが?」
「よくは分からないけど、それが最後の電話だったの。1ヶ月くらい前」

彼女の話の中に出てくるミナは私の知っているミナとは何となく違うものでした。

「で……もし、私の携帯通じなくなったら、もういないと思って、って言ってたんです」
「もういない?」
「その時には悪いんだけどNOFIAさんにミナは死にましたって伝えてくれって」
「……」
「私もこんな電話、変だと思ったし、あの子のことだし、どこかうろうろとしてるとは思うのね。でも、約束は約束だから、こうやって電話したんです」
「……どう思いますか?」
「何がですか?」
「ミナは死んだと思いますか?」
「そんなこと絶対ないと思います」
「そうですよね」
「NOFIAさん、ミナが何度も自殺未遂してたの知ってますか?」
「え」
「別にNOFIAさんのせいではないですけど、そういうことを知らないですよね?」
「初めて聞きました」
「本当です」
「どうして自殺未遂なんかしてたんですか」
「それは私には何とも言えないじゃないですか。でも、ミナがNOFIAさんに電話してねって言ってたことは忘れないでくださいね」
「ええ、まあ」
「じゃあ、その……何かあったら、またご連絡することもあるかもしれません」

そう言って、その女性は携帯を切りました。
その後、彼女からの連絡は今のところはありません。

電話の彼女には「ミナが死んでいるわけなんかない」と言っていた私でしたが、実際には心のどこかで「それもあり得るかもな」とも、また思っていました。
理 由は別にないのですが、ミナのように生き続けるスピードが極めて速い人たちというのは確かに存在して、そういうタイプの人々は濃い人生をあっという間に走 り抜けていってしまう傾向にあります。本人が望んでいるわけではなくとも、太く短い人生を全うしてしまうことがよくあります。ミナとは、そういうタイプの 人だったような気はしていました。
もちろん本人はそれをまったく望んではいなかったにしても。

でも、これは単に「ぼんやりとした憶測」でしかありません。
さらに強い人生を歩むタイプなら、その速いスピードを保ちながらも濃くて長い人生を生き続けるのかもしれません。

しかし、推測し続けることにも何の意味もやはりないのです。
私は、私と私の周囲に実際にあった事実を思い出として持ち続けることができるだけです。