ミスター・ヘイグ氏との戦いに負けた日


私は最近、あるお店のAさんという女性を指名して、二週間に一度くらいお店に行っています。

Aさんという表記だと何だか味気ないし、「国際麻薬組織に人質として誘拐された末にメキシコ国境沿いでギャング同士の銃撃戦に巻き込まれ、流れ弾にあたったものの、現場から自力で脱出してアカプルコ警察に保護されたことが全米で一斉に報道された未成年の日本人女子高生Aさん(17)」というような感じもしますので(なんの比喩だよ)、ここでは彼女がわりとよく似ていると思われる1981年のドイツ映画「クリスチーネ・F」からその名前をもらうことにして、クリスチーネと呼びます。

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ただ、クリスチーネを「クリちゃん」というようには短縮はしません。

そのクリちゃんですが(いきなり短縮してるじゃねえか)、もとい、クリスチーネさんは、性格、精神、いろいろな面でいろいろと問題があり、営業ということをしない、あるいはできません。

もし、彼女がメールではなく、「営業電話」をした場合には次のようなことになるかと思われます。


クリ「あ・・・・・・」
客 「・・・?」
クリ「・・・わたしです」
客 「あ、クリスチーネ。どうしたの?」
クリ「今週・・・・・いや、来週・・・・・あるいは明日・・・・・」
客 「?」
クリ「まだいろいろとわからないの」
客 「?」
クリ「火曜の午後・・・・・・」
客 「クリちゃん・・・・・何言ってるの?」
クリ「ふふふ。やっぱり少し眠る」
客 「?」
クリ「群馬に行きます・・・・・」
客 「?」
クリ「・・・・・・」
客 「あれ? ・・・・・・電話切れとるがな!」


というような感じになるのではないかと思います。
あるいは、ここにまでも至らない可能性もあります。つまり、電話が通じた途端に自分から切ってしまうということです。


いずれにしても、社交性、情緒性といったものに関していろいろな問題が存在する人ではあるのですが、しかし彼女には最大の特徴があります。

それは「とにかく美しい」のです。

私もキャバクラ歴は今となってはある程度になるのかもしれないですが、ここまで美しいと感じたことはかつてないと思えるほどです。

なので、もし仮にこの人が、営業行為を普通にでき、会話も普通にできるような人なら、ものすごい人気になるのではないかと正直思います。実際、夜のお仕事で、美しさだけで飛躍的な人気になるということはないです。営業ができないというスタンスの場合、他に何かお客さんを喜ばせる要素が必要でしょうが、そういうものがクリスチーネにはどうもありません。

さらに、クリスチーネは基本的に「通常の会話ができない」ですので、このあたりも接客業としてはいろいろと問題のある面でもあります。

なので、まあ・・・私にとっては、彼女の多岐に渡る破綻ぶりは、むしろ幸いな感じではあります。

しかし

彼女にはひとりだけ、かなり長い期間に渡って、彼女を指名し続けているお客さんがいるのです。私がクリスチーネと最初に出会ったのは2年近く前になりますが、そのお客さんはそれより以前から彼女を指名し続けていて、それどころか、「ほぼ毎週、彼女と同伴出勤」しています。

営業のできない彼女にとっては本当にありがたいお客さんではあると思いますが、しかし、やはり私にとってはライバルとはいえます。

そして、そのライバル氏こそタイトルにあるとおりの「ヘイグ氏」なのでした。「ヘイグ」というのは、 HAGE を英語的に読んでみたもので、「頭が光輝く中年紳士」という意味であります。



あふれる光の中で

先週の土曜、私は知り合いと居酒屋で11時過ぎまで飲んでいました。

そして、12時前にその知り合いと別れてひとりになりました。その日は家族もおらず、その後もどこかで飲もうとは思っていたのですが、気付くと、クリスチーネのところへ足が向いていました。クリスチーネは、今年の春に別の店からここにうつってきたばかりで、私はこのお店では常連歴がとても短く、多分、店に来るのはこれで3度目くらいでしょうか。


この店の場所は10年以上前には「R」というお店があった場所で、 2000年頃に書いた「誰もいないキャバクラで」の舞台となった場所です。今は店名もかわり、しかも、非常に人気のある店となっているようで、土曜にだけ行っているせいもあるのかもしれないですが、いつも混んでいるというイメージがあります。


私とクリスチーネが出会ったのは、彼女が以前いた「P」という店ですが、そこは今年つぶれてしまいました。「ある日突然閉店した」のだそうです。

そして、その店から何人もの女の子が今のお店にいっせいに移動したのだそうですが、その話をきいたのはクリスチーネ本人からではなく、クリスチーネのヘルプでついた女の子からでした。クリスチーネは「今でも状況があまりよくわかっていない」ということのようです。

そのヘルプの子は、

「クリスチーネちゃんは、そういう時の対処法がわからないし、お店が潰れるということをよく理解していないみたいだったの。それで私たちお店の女の子も、「あの子放っておいたらやばいよ」ってことになって、一緒に誘って、このお店に来たの」。

とおっしゃっておりました。

「なんかねー、守ってあげたくなるよ、あの子は」とヘルプの子は言ってました。


そんなわけでクリスチーネは今のお店にいるのですが、そのミスター・ヘイグ氏は以前のお店からの指名客で、とても長い間、同伴を続けてくれているのだそうです。


同伴というのは、財政的に余裕がない人の場合、なかなかその行動に踏み切れない部分があって、このお店の同伴料金を私は知らないですが、他の女の子にきいた感じでは(クリスチーネは自分の店のシステムや料金自体をよく知らない)、多分、同伴料金自体を1万数千円に設定していて、最初の1時間にそれが適用されて、後の指名システムは通常と同じというような感じだとは思います。

そうだとして、同伴して3時間いた場合、ドリンクやタックス(この店は多分タックス 10%)を入れると、4万〜5万円の間になりそうな感じがします。毎週一回だけ同伴しても、これを月に4回でも結構な額になるし、週二回とかなら、ものすごい金額になりそうな感じがあります。

どうやっても私ら「ピーピー族」(新語大賞かよ)たちの出る幕ではないわけで、このあたりに関しては「完敗」であります。


他にも負ける面は多く、店によって違うでしょうが、「同じ指名の場合、同伴のほうが強い拘束力を持つ」というのがあります。つまり、たとえば、「ひとりの女の子に同時に3人の指名客がいる」という場合、全部同じ指名客なら、時間を3等分します。たとえば、1時間なら20分ずつというように。

ところが、同伴の場合、そこに優遇措置が入るお店というのもあります。つまり、これはたとえですが、

・指名客2人が15分ずつ 同伴客30分

というような意味です。

なので、同伴客と指名が重なると、通常の指名客のほうが少ない時間となるというようなこともあるのではないかと思います。
そういうわけで、私はあらゆる面でミスター・ヘイグ氏に負けているわけで、今後も何ひとつ勝てる可能性はないです。


先日、さらに「ヘイグ氏が勝っている」ことを実感する現実がありました。

それは前述したその土曜日のことでした。

私が入店した時、ヘイグ氏はまだ店内にいました。案内された席はヘイグ氏から遠い席で(指名客同士は遠くに、あるいはお互いに見えないように配置します)、それはいいのですが、しかし、むしろ遠い正面にクリスチーネとヘイグ氏が座っている姿が見えます。そのクリスチーネの姿をチラと見ながら、

クリちゃん・・・」(その呼び方、もうよせよ)

と呟いていると、何か光明のような後光のような光がクリスチーネの横に見えています。

「う、なんだ、あの光は?」

その眩しさに小手をかざしてそのほうを見てみると、ヘイグ氏のハゲた頭にちょうど店内のミラーボールの光が反射して、その頭が美しく光っていたのでありました。ちょっと汗ばんでくる季節になったということも関係しているのでしょうか。それによりもたらされた発光現象・・・。


「光あれ!」


と私はつぶやいて、静かに目を閉じたのでした(もうよくわかんないな)。


ちなみに、このお店の店長さんらしき方は本当にいい人で、多分、同伴と指名客との時間の割りふりのことと関係しているのでしょうが、私2時間いた後に、店長さんらしき人から「お時間です」と言われ、その後少しウダウダとしていた時間などを含めて帰ろうとして時計を見ると、3時半を回っていました。

入店したのが 12時半くらいですので、どう考えても、かなり時間がオーバーしています。店長さんらしき人のほうを見ると、ニコやかに頷いて私のほうを見てくれていましたので、多分、指名として時間が少なかった分を考慮してくれていたようでした。まあ、「多分」ですが、悪い気はしないです。

これに関して、別に何の会話のやりとりもあったわけでないですが、私はその店長さんらしき人に「どうもありがとうございます」と言って帰りました。

後光を放つミスター・ヘイグ氏に勝てる日はなさそうですが、このお店自体には気持ちよく来られそうです。


2011.06.13


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